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2010年度活動報告

Ⅰ.概要
舞踊研究コースでは、東西の舞踊を対象にして舞踊理論研究(史学・美学など)、舞踊分析研究(作家・作品・振付・演技など)、さらに両者を融合した研究を行うことによって、日本の舞踊学研究の水準向上に貢献することを目指して活動を展開した。
そのために、1.コース全体企画、2.個別プロジェクトの二本柱で運営。全体企画では、国外から招聘講師による講演会及び研究会を開催するとともに研究生への研究指導を行った。個別プロジェクトでは各々の課題に基づいた研究会を開催した。【Ⅰ】現代舞踊プロジェクト(コンテンポラリー・ダンスを中心にした舞踊史、作品、演技などの舞踊分析法研究)(担当:片岡康子、石井達朗)、【Ⅱ】古典舞踊プロジェクト(バレエ史)(担当:鈴木晶)。
また研究員のための学術論文指導体制を充実させて論文執筆を奨励し、国内外における研究調査への派遣などにより、学位取得に向けて研究を進展させた。具体的指導体制としては、研究員の研究テーマに応じた第一線の研究者を客員講師、研究協力者、及び研究会招聘講師として招聘して論文指導に強力を仰ぎ、随時の個別指導も強化するとともに、合わせて国内外での学会発表や国際的な学術誌への論文投稿を促進し、研究成果を上げた学生を海外とのネットワークに参加させるなど積極的な支援を行った。以上の支援を通して、国際的に活躍しうる舞踊学研究者の育成を図っている。


■担当者
〈事業推進担当者〉
片岡 康子 早稲田大学文学学術院客員教授 お茶の水女子大学名誉教授

〈客員教員〉
石井 達朗 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師、 慶應義塾大学名誉教授
鈴木 晶 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員次席研究員、法政大学教授


〈研究助手〉
渡沼玲史 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 研究助手


Ⅱ.コース活動報告
■海外招聘講師による講演会

【スーザン・アレン・マニング氏による講演会】
舞踊研究コースでは、ドイツ表現主義舞踊の創始者の一人であるマリー・ウィグマンの研究で知られ、近年はジェンダー/人種/民族といった政治的な視点から舞踊史を読み解く研究を進めておられるスーザン・アレン・マニング氏(ノースウエスタン大学教授)を講師としてお迎えし、「アメリカにおける舞踊研究の現在」という企画のもと2 回の講演会を行った。また2 月16 日にはGCOE研究生に対する研究指導も行われた。

「(クィア)アメリカン・ダンスの生成」
日時:2011 年2 月14 日 18:30 ~ 21:00
場所:早稲田大学早稲田キャンパス26 号館302 会議室
講師:スーザン・アレン・マニング(ノースウエスタン大学教授)
コメンテーター:石井達朗(GCOE 客員講師・慶應大学名誉教授)
概要:マニング氏は、アメリカのモダンダンスにおけるセクシャリティ/ 人種/ 民族の問題を観客の受容に焦点をあて、社会的なアイデンティティが異なる聴衆は、同じ舞台からまったく違う意味を受容するということを、例を挙げて説明した。特にそれはセクシャリティにおいて顕著に現れ、同性に対する性的な魅力を誇示するような舞台においても、同性に対する性的欲求を持たない聴衆は得てしてまったく気づかない。こうした観客の社会的帰属による受容の乖離の問題を、アメリカにおける同性愛の生の歴史的変化にそって、アメリカモダンダンスにおける中心的な男性振付家、テッド・ショーン、ホセ・リモン、マース・カニンガム、アルヴィン・エイリーの例を挙げて説明した。そしてゲイであった彼らの作品が、アメリカにおけるゲイを取り巻く社会的な環境の変化と正確に一致していると指摘した。続いてコメンテーターの石井達朗氏のコメント、及び質疑応答がなされ、そこではマニング氏が講演の中で用いた“cross-viewing”という、観客が自身社会的アイデンティティとは違うコンテキストによる作品の意味を垣間見ることを示す概念とその射程が問題となった。これまで、日本におけるアメリカ・ダンス史においては殆ど問題にされてこなかった、セクシャリティと社会と作品の密接な関係が明らかにされ、日本におけるダンス研究に全く新しい視点を提供する貴重な講演会となった。

「アメリカにおける舞踊研究の発展」
日時:2011 年2 月15 日(火)18:30 ~ 21:00
場所:早稲田大学早稲田キャンパス26 号館302 会議室
講師:スーザン・アレン・マニング(ノースウエスタン大学教授)
コメンテーター:鈴木晶(法政大学教授)
概要:マニング氏はまず「舞踊研究(dance studies)」という用語には広い意味と、狭い意味があり、舞踊実践における文化的・歴史的・理論的側面を研究する狭い意味での舞踊研究に焦点を当てることを宣言した。そして、アメリカにおける舞踊研究の発展を学会の設立をはじめとする制度の確立と、舞踊研究の方法論の発展について、アメリカ政府による舞踊芸術への援助といった政治的な側面の影響を挙げながら概説した。舞踊研究まず、バランシンやグラハムといったアメリカにおける新しい舞踊の勃興と共に現れた広範な知識を持つ批評家によって担われると共に、図書館による資料の収集や、舞踊団による失われた作品のリコンストラクションといった活動によって大学の外で発展した。アカデミズムによる研究は、1970 年代に制度的に確立し、学会が存在し、学会誌で研究を発表し、時に賞を受けるということがごく当然の環境として受け止められるようになった。舞踊の実践がモダンダンスからポストモダンダンスへと移行した80 年代以降、アカデミズムにおいてはポスト構造主義が広く受け入れられるようになり、舞踊研究の新たな可能性をもたらした。最後に具体的な事例を挙げながら、今後の舞踊研究はますます横断的な方法論が必要とされるようになるという展望で締めくくった。コメンテーターの鈴木晶氏が日本における舞踊研究の状況をまとめられ、質疑応答では舞踊研究の在り方についての意見が交わされ、今後の日本における舞踊研究の発展に大きな刺激となる講演会となった。


■バレエ研究プロジェクトによる講演会
バレエ研究プロジェクトでは全6 回の講演会を主催し、バレエ研究及びその応
用と多岐に渡る観点からバレエに迫るとともに、研究者間の交流を促進した。

「バレエ―初期映画史再考のためのもう一つの挑戦」
共催:映像研究コース
日時:2010 年6 月5 日(土)15:00 ~ 17:00
場所:6 号館318(レクチャールーム)
講師:小松弘(GCOE 映像コース事業推進担当者)
概要:「バレエ―初期映画史再考のためのもう一つの挑戦」と題した講演が小松弘氏によって行われた。初期映画史におけるダンサー/ダンサー的登場人物の意義を、映画というメディアの特性と当時の観客の受容、また実際の映像の紹介などから多角的に明らかにした。また、映画スター誕生以前の初期映画におけるダンサーの存在を、スター的存在の映画への輸入であることを示唆しながら、あまり見ることができないアンナ・パヴロワが踊っている映像、昨年発見されたタマラ・カルサヴィナが踊っている映像も紹介された。最後には鈴木晶氏からも補足説明がなされ、舞踊研究と映像研究の共同による新たな研究の可能性が垣間見られた会となった。

「18 世紀舞踊史再考―ノヴェールの舞踊論」
日時2010 年7 月3 日(土)15:00 ~ 17:00
場所:早稲田大学国際会議場共同研究室7
講師:森立子(自由学園講師)
概要:森立子氏にジャン・ジョルジュ・ノヴェール(1727–1810)の『舞踊とバレエについての手紙』というバレエ史において重要な役割を持つ著作について、ご講演いただいた。ジャン・ジョルジュ・ノヴェールは、18 世紀における「バレエの改革者」として舞踊史上にその名を残している。とりわけその著作『舞踊とバレエについての手紙』で展開されている彼の舞踊論は、当時大きな反響を呼んだだけでなく、後の時代にもたびたび引き合いに出されて論じられており、その影響力の大きさをうかがわせる。森氏はまずこの著作の成立過程を紹介し、次にこの著作の重要な概念である「アクシオン」と「パントマイム」という二つの概念に焦点を当てて『舞踊とバレエについての手紙』を読み解くことでノヴェールが理想としたバレエの姿を描き出した。最後に、出席者から盛んに意見や質問が投げかけられ、ノヴェールの著作における概念の問題から、20 世紀のドラマティック・バレエ、18 世紀の絵画に至るまで活発な議論が展開される充実した研究会となった。

「1946 年帝国劇場バレエ公演『白鳥の湖』における藤田嗣治の舞台美術」
2010 年10 月14 日(木)18:30 ~ 20:30
場所:26 号館302 教室
発表者:佐野勝也
(早稲田大学大学院文学研究科博士課程:グローバルCOE 研究生)
概要:佐野勝也氏により「1946 年帝国劇場バレエ公演『白鳥の湖』における藤田嗣治の舞台美術」と題された発表が行われた。佐野氏は『白鳥の湖』の公演が日本バレエ史において奇跡的な出来事であったとともに決定的な出来事であったという事実を振り返り、そこに藤田が舞台美術として参加することになった経緯を資料を引用しながら説明した。また、藤田が作った舞台美術に関しては、プラン図を示して影響関係を推察するとともに、実際に舞台化された美術に関しては、現存する数少ない写真資料は勿論、佐野氏自身が行ったインタビューにおける関係者達の証言を交えてその実像に迫った。また、藤田のプラン図を三林亮太郎によるプラン図と美術史学的な立場から比較することで藤田のプランの特徴をしめした。発表後、日本バレエ史研究者の川島京子氏より、『白鳥の湖』初演が日本バレエにとっていかに革命的・決定的な出来事であったか、また当時の衣装の作成法について補足説明があった。また、藤田の舞台美術の特徴を示すのであればむしろ藤田が見てきたヨーロッパのバレエ公演の舞台美術との比較が必要であるとの指摘があった。鈴木晶氏からは、上海ロシア・バレエ団のバレエマスターであった小牧正英が藤田に資料を提供した可能性が指摘された。日本バレエにおいて決定的であった『白鳥の湖』全幕初演という出来事に対し様々な視点から複眼的に迫る事ができる有意義な会となった。

「テオフィル・ゴーチエによる舞踊評― ロマンティック・バレエにおける“パ”の可能性」
日時2010 年11 月18 日(木)18:30 ~ 20:30
場所:26 号館302 会議室
講師:小山聡子(慶応義塾大学非常勤講師)
概要:小山聡子氏をお迎えして、テオフィル・ゴーチエの舞踊評についてご講演いただいた。まず、ゴーチエ以前の18 世紀後半から19 世紀初頭のバレエの状況を様々な批評家達の批評からパントマイムによって物語を説明するものであり、それがバレエ・ダクシオンを提唱したジャン=ジョルジュ・ノヴェールの影響によるものであることを資料を示しながら紹介した。ゴーチエはそうした立場とは一線を画し、身体の美、ダンスの美そのものを称揚していたが、ロマンティック・バレエがそうした美を体現するとともに、“パ”が持つ新たな可能性を開示していた可能性を映像資料を交えながら明らかにした。ゴーチエがそれをいち早く見抜き、舞踊評において“パ”という動作を読み、その読みを書くという実践において開示していたことを資料において示し、ゴーチエの実践がマラルメに継承された可能性を示唆した。また他方でゴーチエが読み取った“パ”の可能性が、実際にプティパ、バランシンと実現されていったと示唆した。質疑応答ではゴーチエという人物から、バレエにおける象徴性の問題に至るまで活発な議論がかわされた。

「舞踏記譜とダンス様式 《ボシャン‒フイエ記譜法を中心に》」
2010 年11 月25 日(木)18:30 ~ 20:30
26 号館302 会議室
講師:市瀬陽子(聖徳大学准教授)
概要:市瀬陽子氏をおまねきして、主に17 世紀~ 18 世紀における舞踊の記譜法と、その時代の舞踊の実際についてご講演頂いた。まず記譜法の歴史を、15 世紀以降の記譜や振付記録、他の資料や画像の紹介を含めながら詳しくたどった。また、同時に当時の記譜と資料を元にリコンストラクション(再現)する際の困難が、記譜法ごとに紹介された。さらに、それらの記譜と記録からリコンストラクション(再現)した舞踊の映像をみることで当時の舞踊の様子を垣間見る事ができた。また、実際に記譜・記録を元にリコンストラクションすることで、宮廷舞踊が意外にも激しいものだったことが明らかにされ、宮廷舞踊について漠然と抱かれていた優雅というイメージがリコンストラクションによって覆されたことをリコンストラクションされた舞踊の映像を紹介することで明らかにした。質疑応答では、当時の政治・社会状況と舞踊との関係、男性と女性の踊りの違い、またリコンストラクション時の解釈の違いなど多岐にわたる質問が出され、全ての質問に丁寧にお答えいただいた。バレエと発展と密接に関係する舞踊と記譜法を知る貴重な研究会となった。

「三次元モーションデータのバレエ研究への応用」
2010 年12 月9 日(木)18:30 ~ 20:30
26 号館302 会議室
講師:海野敏(東洋大学教授)
概要:海野敏氏をお招きして、モーションキャプチャデータのバレエ研究への応用についてご講演いただいた。海野氏はまずモーションキャプチャ装置の特徴と現在の主たる利用方法について概説された。次にご自身のプロジェクトである自動振付のコンセプトを、振付手法を表現的手法と構築的な手法に分類すれば、構築的な手法にあたり、その中でも分析合成型振付であると位置づけた。このコンセプトを実現するためにはまず、バレエ動作そのもの分析が必要であること、また実際のバレエ動作の分析方法とその基準・根拠を詳しく解説された。またその分析方法に基づいて記号化されたバレエのパとモーションキャプチャデータを結合させ、利用することで作成したWeb Dance Composer のプロジェクトを紹介された。このプロジェクトではWeb 上でパを組み合わせる事で振付し、その3DCG を見ることができるとともに、様々なディジタルならではの操作が可能になる。また自動振付によって人の手を介さずに振付をする事も可能であることを紹介され、またその評価実験の結果も紹介された。最後にVirtual Dance Theatreというダンス作品の3DCG をWEB 上で見ることができるようにするプロジェクトが紹介された。最先端のディジタル技術とバレエの結合によって拓かれる様々
な可能性を実感できる貴重な会となった。


■現代舞踊プロジェクトによる講演会
現代舞踊プロジェクトでは、内外で活躍する振付家を講師としてお招きし、その来歴と創作原理に迫る講演会を中心に行った。

【ホフェッシュ・シェクター氏講演会】
「現代イギリス舞踊界の俊英ホフェッシュ・シェクター氏をむかえて」
日時:2010 年6 月23 日 18:30 ~ 20:30
場所:早稲田大学26 号館302 会議室
講師:ホフェッシュ・シェクター
聞き手:石井達朗(GCOE 客員講師・慶應大学名誉教授)
概要:現在、イギリスのダンスシーンでもっとも注目される振付家であるホフェッシュ・シェクター氏を講師として迎えて、氏の過去の作品の上映を交えながら振付の方法論や作品創造、また氏の来歴について語っていただいた。8歳でのフォークダンスによる自身の身体との出会いから、バットシェバ舞踊団を始めとする様々なダンスカンパニーでの経験を経て、自身のカンパニーを立ち上げるまでを、エルサレム、テルアビブ、パリ、ロンドンへの移住という地理的/文化的な越境と、ダンスを始める以前から習っていた音楽の再開、特にドラムへの傾倒という複層したダンス/ 音楽経験を交えながら語った。またロンドン移住後に作り、賞賛を浴びることとなった作品群を振り返りながら解説し、ダンサーの選び方から実際の作品の創作方法までを明らかにした。会場から出された音楽とダンスとの具体的な関係から、現代イスラエルの政治的状況との自身の関係に至るまでの質問にも丁寧に回答した。本研究会は、これまで日本で知られてこなかった振付家を紹介するとともに、人種・国籍を超えてグローバル化が進行する西欧のダンス界の状況を照らし出した。

【ジェローム・ベル氏講演会】
「ジェローム・ベルによるジェローム・ベル」
日時:2011 年11 月4 日 18:30 ~ 21:00
場所:26 号館地下多目的講義室
講師:ジェローム・ベル
概要:いまや世界中の劇場やフェスティバルに招聘されるダンス界の寵児といえる振付家のジェローム・ベル氏をお迎えして、経歴から作品の創作原理までを語っていただいた。前半はベル氏が振付家となるまでの経歴が語られた。ダンスを学ぶ事を決意した経緯を、当時のフランスにおけるダンスの社会的・芸術的な背景を交えながら語り、ダンスを中断して他の芸術分野に関心を寄せながら、ダンスに復帰し振付家となった決断が友人の死をきっかけとしたものであったことを明かした。後半は、作品の映像を上映しながらベル氏が作品の解説する形で行われ、ベル氏は作品毎の目的とその手段を明解に説明し、ベル氏の作品群が、あらゆる劇場的な制度を暴露し否定する「恐るべき子供」としての一貫した強い論理と、自身の観劇体験に基づく劇場形式に対するある素朴な信念「ここでしか起きないある特別な事が起きている」によって支えられていることが明らかにされた。最後に会場からの質問に、ベル氏は、《ヴェロニク・ドワノー》に始まる個人に焦点を当てた作品群が、自身の観客としてのダンス体験に密接に関わる個人
に焦点を当てていると応え、《ヴェロニク・ドワノー》から《ドライアップシード》にいたる作品群がジェローム・ベルによる《ジェローム・ベル》である事を
示唆しながら講演を終えた。

ダンスとオペラーオペラ作品にダンスを振付けることについて
2011 年12 月22 日(水)18:30 ~ 20:30
場所:早稲田キャンパス26 号館(大隈記念タワー)302 会議室
講師:大島早紀子
概要:H・アール・カオスを主宰する大島早紀子氏をお招きして、近年のオペラ作品への演出・振付を中心に、作品創りについてご講演いただいた。前半部では、これまでのH・アール・カオスの活動を映像とともに振り返りながら、それぞれの作品の概要、背景説明や演出の工夫などを詳しく解説していただき、H・アール・カオスの作品が現代という時代の社会状況に対する批判的な視点から出発しながら、単なる絵解きにとどまらず高い完成度をもつダンス作品として結晶したことが映像から垣間見られた。後半部では特にオペラ作品への振付・演出に焦点を絞り、作品の映像を見ながら解説していただいた。それによって単にオペラ作品の中にダンスを挿入するということではなく、ダンスとオペラが一体となった舞台が創り上げられていたことが分かった。質疑応答では、指揮者を始めとする音楽家達とどのようにオペラ作品をつくりあげていったのかという質問に対し、実際に起こったことを具体的に語りながら、製作過程において指揮者を初めとする音楽家達を説得する実践家としてのコミュニケーション術と、舞台作品となったときに音楽家達を納得させる芸術家としての才能が同時に要求される作業であったことを示唆した。20 年以上にわたり日本のコンテンポラリー・ダンスを牽引してきた振付家・演出家の功績を振り返る貴重な会となった。

ダンスは誰のもの? ―ダンスする身体の多様化をめぐって―
日時:2011 年3 月8 日(火)
場所:6 号館318 レクチャールーム
講師:中島那奈子
概要:中島那奈子氏をお迎えして、「ダンスは誰のもの? ―ダンスする身体の多様化をめぐって―」という題でご講演いただいた。中島氏はこれまで舞台芸術舞踊においてはあまり顧みられることのなかった老いた身体、障碍者の身体に焦点をあてながら「美学的な転回(エステティックターン)」と「技巧的転回(テクニカルターン)」という二つの転回を軸に、前者についてはビル・T・ジョーンズ、後者に関しては劇団ティクバ+巡回プロジェクト、ピナ・バウシュ、ハイク・ヘニグ、大野一雄の例を挙げ、適宜映像資料を交えながら解説した。「美学的な転回」とはポストモダンダンス以降に美の基準が様々な言説によって批判され美そのものが自明視されなくなった事態を指し、「技巧的転回」は「美学的な転回」によって可能になった批判によって、新たなダンスの技巧が可能となり、障碍者や老いた身体といった新しい身体とダンスが登場し受け入れられるようになった事態を指す。この二つの転回から、老いた身体や障碍者の身体が舞台芸術舞踊への登場と発展を歴史的に位置づけ、その意義を歴史的・美学的に考察する刺激的な講演となった。


■研究生に対する研究指導
第1 回「博士論文執筆指導」
日時:2010 年5 月14 日 14:45 ~ 17:00
場所:31 号館306 教室
指導教員:片岡康子(早稲田大学客員教授)、石井達朗(GCOE 客員講師・慶應大学名誉教授))、鈴木晶(法政大学教授)、吉川周平(京都市立芸術大学名誉教授)。
第2 回「紀要論文執筆指導」
日時:2010 年7 月9 日(金)13:30 ~ 15:00
場所:国際会議場共同研究室7
研究指導:片岡康子(早稲田大学客員教授)、石井達朗(GCOE 客員講師・慶應大学名誉教授)、鈴木晶(法政大学教授)、吉川周平(京都市立芸術大学名誉教授)。
第3 回「研究成果報告と指導」
日時:2011 年3 月8 日(火)13:00 ~ 17:00
場所:6 号館318 レクチャールーム
研究指導:片岡康子(早稲田大学客員教授)、石井達朗(GCOE 客員講師・慶應大学名誉教授)、鈴木晶(法政大学教授)


■研究生の論文執筆状況
◆ GCOE 紀要
■村上由美
ステファヌ・マラルメのバレエ評論の再読解―失われたバレエ《ヴィヴィアーヌ》とマラルメのバレエ評論をめぐって―
■北原まり子
―第二の《春の祭典》(マシーン振付、1920 年初演)における変更―
■許 娟姫
植民地朝鮮における妓生の舞踊活動とその動向
■水田佳穂
藤蔭会の「思凡」について―背景を中心に―
■渡沼玲史
ジャドソン・ダンス・シアターにおける実験的創作法とその意義― Democracy’s Body(Banes, 1993)を中心に―
■越智雄磨
フランスにおけるアメリカのポスト・モダンダンスの影響―クアトゥール・アルブレヒト・クヌストの活動を巡って
■竹田恵子
ダムタイプによるパフォーマンス《S/N》(1994)の物語構造分析

◆ GCOE 以外の学術誌
■稲田奈緒美
Details to Find and Details to Share, DANSCROSS 2009 - Dancing in A Shaking World Proceediing by Beijing Dance Academy and Midllesex
「 踊る文体を読む―土方巽の技法と言葉」、『土方巽―言葉と身体をめぐって』、角川学芸出版、2011 年3 月、
「 暗黒舞踏・土方巽の1960 年代における“土俗性”」、『舞踊学の現在』、文理閣、2011 年3 月
■越智雄磨
「 フランスにみるアメリカのポスト・モダンダンスの影響」、『演劇映像学』、早稲田大学演劇映像学会
「 ジェローム・ベル《The Show Must Go On》分析」、『早稲田大学文学研究科紀要』、【査読有】
■川島京子
「 ジョージ・バランシン論~プロットレス・バレエを可能としたもの~」、『舞踊学の現在』、文理閣、2011 年3 月
■小林奈央子
「 アレクサンデル・サカロフの舞踊― 20 世紀初頭ヨーロッパにおける舞踊と美術の接近」、『舞踊学の現在』、文理閣、2011 年3 月
■竹田恵子
「 90 年代日本におけるHIV /エイズをめぐる対抗クレイムのレトリック分析―古橋悌二と「男性同性愛者」たちの比較から」、『年報社会学論集』【査読有】
■宮川麻理子
「 受肉する場―「お膳」/からだ/劇場」、学生論文集『パフォーミング・アーツとはいかなるアートか』、【査読有】
■村上由美
「 マラルメにおけるロイ・フラーの問題―「もうひとつの舞踊論~バレエにおける背景、最近の事例に基づいて」から」、『日本フランス語フランス文学
会関東支部論集』、日本フランス語フランス文学会関東支部、第19 号
■渡沼玲史
「即興の方法に基づくダンスの分析」、『舞踊学』、舞踊学会、第33 号【査読有】

◆博士論文
■川島京子
  「 エリアナ・パヴロバによる日本へのバレエ移植」、早稲田大学博士論文、博士学位取得

◆単行本出版
■川島京子
エリアナ・パヴロバによる日本へのバレエ移植、早稲田大学出版部(早稲田大学モノグラフ)

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