2011年度活動報告
Ⅰ.概要舞踊研究コースの中心的な研究対象は、現代日本のいわゆるコンテンポラリーダンスと欧米の舞踊である。日本の舞台芸術を研究する場合と違って、欧米の舞踊を研究するには、当該分野の第一人者を招聘してその生の講義を聴くことがきわめて重要である。というわけで、2011年度は以下の先生方を招いた。バーナード・カレッジ(コロンビア大学)のリン・ガラフォラ氏はバレエ・リュスの第一人者として著名だが、彼女の研究範囲はそれに留まらず、19-20世紀の舞踊全般をカバーしている。またパリ第8大学のイザベル・ロネ氏はフランスを代表する舞踊学者であり、その研究範囲も舞踊史、現代舞踊の最先端、文化政策と、ほぼ舞踊学全般をカバーしている。どちらも単発の講演会というより集中講義という感じで開催した。一方、フランツ・アントン・クラマー氏は舞踊学者かつ舞踊評論家で、ヨーロッパの舞踊の事情に非常に詳しい先生だが、ちょうどドイツ文化センターのレジデンス研究者として日本に滞在していたこともあって、公演が実現した。また、舞踊研究コースではこれまで公演のために来日するアーティストにじかに話を聞くという機会を設けてきたが、今回はフランスのコンテンポラリーダンス界で有名なグザヴィエ・ル・ロワ氏を招聘した。
■担当者
〈事業推進担当者〉
鈴木 晶 早稲田大学文学学術院客員教授、法政大学教授
〈研究助手〉
渡沼玲史 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 研究助手
Ⅱ.コース活動報告
リン・ガラフォラ氏講演会 「バレエ・リュスと20世紀ダンス」
場所早稲田キャンパス26号館(大隈タワー)3階302会議室
主催舞踊研究コース
講師:リン・ガラフォラ(Lynn Garafola)
司会・コメンテーター:鈴木晶(舞踊研究コース事業推進担当者)
通訳:角田美知代
『バレエ・リュスと20世紀ダンス』と題して行った講演において、ガラフォラ氏はバレエ・リュスが20世紀ダンスの重要な二つの潮流の起源であることを明かした。つまり、ダンスとナショナル・アイデンティティとを結びつける潮流と、ダンスが同時代的性を表現する革新的な芸術実践の場となる潮流である。バレエ・リュス以前にはどのバレエ団も国籍に関わりなく芸術家やダンサーを登用した多国籍集団であったが、バレエ・リュスが国家的なアイデンティティを前面に出し、それが大成功を収めた結果、バレエとナショナル・アイデンティティの結びつきは確固としたものとなった。その結びつきの強さは、ダンスの形式としてはバレエでないカンパニーが国家と結びつくことで国立のバレエ団として次々と登場するという事態にまで発展した。他方で、バレエやダンスが同時代性の表現であり得ることを示したのもバレエ・リュスであり、その試みは様々な形で主に通常バレエとは考えられないダンスによって継承されたことを様々な具体例を挙げるとともに、それらのカンパニーとバレエとの無視できない技術的な結びつきを指摘することで、通常考えられている以上にバレエとダンスの関係が強いものであることを示した。ガラフォラ氏の広範な知識に基づく分析によって20世紀ダンス史研究の新たな展望を拓く講演会となった。 .
リン・ガラフォラ氏講演会 「アメリカにおけるダンス研究」
日時 2011年6月15日(水) 18:30~20:30
場所早稲田キャンパス26号館(大隈タワー)3階302会議室
主催舞踊研究コース
概要講師:リン・ガラフォラ(Lynn Garafola)
司会・コメンテーター:鈴木晶(舞踊研究コース事業推進担当者)
通訳:角田美知代
【開催報告】
舞踊研究コースではこれまで招聘してきた先生方に舞踊研究を研究としていかに確立するかをテーマとした講演をお願いしてきた。ガラフォラ氏には『アメリカにおけるダンス研究』という題で講演をお願いした。ガラフォラ氏はアメリカにおけるダンス研究の歴史を20世紀初頭から現在まで主に大学とダンスの関係を中心に説明されるとともに、アメリカにおけるダンス研究の問題点、特に批評理論の問題点と今後の展望を話された。1980年代後半以降、批評理論がダンス研究に支配的になった。その結果として理論が適応しやすい周辺的な事象に研究が集中し、基本的なバレエやダンスに対する研究が見過ごされることとなった。更に、理論を現実のダンスに押し付ける歪みと歴史研究の方法論に対する軽視にも警鐘をならし、歴史研究こそが舞踊研究の中心にならなければならないと結んだ。
グザヴィエ・ル・ロワ講演会「視覚イメージの生産と受容」
日時 2011年6月22日(水) 18:30~21:00
場所早稲田キャンパス26号館(大隈タワー)地下多目的講義室
主催舞踊研究コース 協力:東京・横浜日仏学院
話し手 グザヴィエ・ル・ロワ(振付家)
フランス語通訳 高野勢子
フランスのコンテンポラリーダンスは1990年代半ばに一つの転換点を迎えたと言われている。この時期に多くの振付家やダンサーがダンスに関する既存の政治や美学に疑問を抱き、多様なダンスの方法論が導きだされた。パリ第八大学を中心とするフランスの研究者たちはこの新たな舞踊ムーブメントを「ヌーヴェル・フォルム」と呼ぶ。ただし、この呼称や定義は暫定的であるため、現在の舞踊研究において、このムーブメントをいかに歴史的に位置づけ、その多様な実践をいかに分類、分析し、理論化するかが一つの課題になっている。その面から観て「ヌーヴェル・フォルム」の急先鋒を担った振付家ル・ロワ氏の日本で最初となる本講演は意義深いものであった。
今回の講演では『ナルシスフリップ』『Self Unfinished』『無題』『春の祭典』という4つの作品を題材として、それぞれの作品に固有の方法論について話して頂いた。「観客は身体の動きだけでなく、動きが作られる方法、その方法が舞台で具体化されるプロセス、動きが代理=表象するもの、それらを包括的に観ている」という発言に氏独自のコレオグラフィ概念が端的に表されていたと言えるだろう。作品毎に方法論、身体性、視覚性、観客との関係性を変更し、ひいては劇場が伝統的に保持してきた「見る―見られる」という機能さえも更新するル・ロワ氏の斬新な作品に聴衆は大きな関心を寄せ、多数の質問が投げかけられた。
イザベル・ロネ講演会「ダンスの「作品」とは—ニジンスキー振付『牧神の午後』、あるいは舞踊作品の影響圏をめぐって」
日時 2011年11月7日(月) 18:30~21:00
場所早稲田キャンパス26号館(大隈記念タワー)3階302会議室
主催舞踊研究コース・西洋演劇研究コース(フランス語圏舞台芸術研究プロジェクト)
講師:イザベル・ロネ(パリ第8 大学教授)
使用言語:フランス語
日本語通訳:パトリック・ドゥ・ヴォス(東京大学教授)
パリ第8大学より現代舞踊研究(フランス・ドイツ)の第一人者であるイザベル・ロネ教授を招聘し、『舞踊 記憶・再(引用)』というテーマのもと、連続講演会を開催した。本研究会はその第1回めであり、「ダンスの「作品」とは--ニジンスキー振付『牧神の午後』、あるいは舞踊作品の影響圏をめぐって」と題して、ニジンスキー作品がいかに変奏され、記譜され、解釈され、引用され、言及されてきたのか、をお話し頂いた。歴史的な検証と緻密な作品分析により、同じタイトルを持つ作品であってもそれぞれ異なるものであり、多用であることが明示された。
イザベル・ロネ講演会「自伝に見るダンサーの形象—イザドラ・ダンカンとモーリス・ベジャールの場合」
日時 2011年11月9日(水) 13:00~15:30
場所早稲田キャンパス26号館(大隈記念タワー)3階302会議室
主催舞踊研究コース・西洋演劇研究コース(フランス語圏舞台芸術研究プロジェクト)
講師:イザベル・ロネ(パリ第8 大学教授)
使用言語:フランス語
日本語通訳:パトリック・ドゥ・ヴォス(東京大学教授)
パリ第8大学より現代舞踊研究(フランス・ドイツ)の第一人者であるイザベル・ロネ教授を招聘し、『舞踊 記憶・再(引用)』というテーマのもと、連続講演会を開催した。本研究会はその第2回めで、「自伝に見るダンサーの形象--イザドラ・ダンカンとモーリス・ベジャールの場合」についてお話し頂いた。自伝とは、ダンサーによって重視されている文学形式であるが、作業のための新たな舞台でもあり、芸術家としての自らの形象を構築するための戦略でもある。本研究会では、イザドラ・ダンカンとモーリス・ベジャールによる自伝を取り上げ、どのようにダンサーが形象されているかが検討された。
イザベル・ロネ講演会「ジェローム・ベルにおける「引用」の作業」
日時 2011年11月11日(金) 18:30~21:00
場所 26号館(大隈記念タワー)地下多目的講義室
主催舞踊研究コース・西洋演劇研究コース(フランス語圏舞台芸術研究プロジェクト)
講師:イザベル・ロネ(パリ第8 大学教授)
使用言語:フランス語
日本語通訳:パトリック・ドゥ・ヴォス(東京大学教授)
パリ第8大学より現代舞踊研究(フランス・ドイツ)の第一人者であるイザベル・ロネ教授を招聘し、『舞踊 記憶・再(引用)』というテーマのもと、連続講演会を開催した。本研究会はその第3回めで、「ジェローム・ベルにおける「引用」の作業」についてお話し頂いた。ジェローム・ベルの作品の多くは、知的で複雑な引用の仕方によって特徴づけることができる。ダンスという領域では、どのような方法で引用が行われ、またこの作業がどのような意義を持つのか、といった問題が検討された。
フランツ・アントン・クラマー氏講演会「ドイツにおけるダンスシアターからコンテンポラリーダンスへ――ピナ・バウシュを超えて 」
日時 2011年12月7日(水) 18:30~20:30
場所早稲田キャンパス10号館1階105教室
主催舞踊研究コース
講師:フランツ・アントン・クラマー
後援:Goethe-Institut Villa Kamogawa
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