オペラ研究会
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開催概要
日時 | 2007年9月25日(火)18:15~20:30 |
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場所 | 西早稲田キャンパス8号館307室 |
主催 | 西洋演劇研究コース |
概要 | 発表者:中村仁 タイトル:『時事オペラについて-クシェネク、ヒンデミット、ヴァイルを中心に』 |
詳細情報
発表要旨:第1次世界大戦および大戦後の混乱を経て1920年代なかばより「相対的安定」を取り戻したドイツでは、若い作曲家達によって、当時の大都市の日常生活を舞台に、ポピュラー音楽の語法をふんだんに用いた音楽による『時事オペラ』Zeitoperと呼ばれるオペラ作品が多く作られた。1927年のクシェネクの《ジョニーは演奏する》、1928年のヴァイルの《三文オペラ》等、いくつかの作品は大きな成功を収めた。しかしこれらの作品は、近年ヨーロッパにおいて「再発掘」の動きが出てきてはいるものの、今日のオペラ上演のレパートリーとして残っているとはいい難い。
これらの作品は一方で、ヴァイマール共和国の大都市文化、カバレットやレヴュー、映画といった大衆娯楽に便乗した一過性の流行だったといえるかもしれない。しかし他方で、作曲家達にとって「時事オペラ」は、オペラというエリート階級の芸術体験をより広い層に向けて発信ゆこうという、オペラをめぐるある種の社会変革の手段であった。そしてそれは教育や制度改革を通じて、芸術をエリートから幅広い民衆へ開放してゆこうとする当時の社会民主党を中心とした共和国政府の文化政策とも相通じる。しかし「社会にむけて」オペラを作っていった『時事オペラ』の作曲家達にとって、「社会」とははっきりとした実体を持たない不明瞭な概念で、その中身は労働者から大都市の大衆、あるいは民族共同体まで様々であった。
本発表では、こうした『時事オペラ』の背景にあるオペラをめぐる社会構造の変化、作曲家たちが『時事オペラ』を通じて目指した「社会」や「共同体」についての思想、そしてそれらを実際に聴衆がどう受容したのか、ということに注目しながら、『時事オペラ』を当時のドイツ社会、音楽文化におけるひとつの「運動」として捉えてゆきたい。
具体的な作品分析としてはクシェネクの《ジョニーは演奏する》、ヴァイルの《三文オペラ》、ヒンデミットの《今日のニュース》をとりあげる。