2008年度活動報告
Ⅰ.概要
映像研究コースは実際上、主に映画史研究を中心に活動が進められています。グローバルCOE プログラムが博士課程の学生に学位を取らせるための支援を主要な目的にしている関係で、目下、研究員として登録している学生の専門にできるだけ合わせたいくつかのプロジェクトを実行しておりますが、もちろんそれだけにとどまらず、演劇研究と映画研究の融合および国際的なレヴェルでの優れた業績づくりという目標を達成するために、独立したプロジェクトをも立ちあげております。
■担当者
〈事業推進担当者〉
小松弘 早稲田大学文学学術院教授
武田潔 早稲田大学文学学術院教授
十重田裕一 早稲田大学文学学術院教授
長谷正人 早稲田大学文学学術院教授
藤井仁子 早稲田大学文学学術院専任講師
〈研究助手〉
後藤大輔 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 研究助手
Ⅱ.プロジェクト別活動報告
映画史
研究員の研究を支援するプロジェクトですが、2007 年の開始時からD.W. グリフィスに関するプロジェクトを立ち上げ、とりわけ1908 年から1909 年にかけてのグリフィスのバイオグラフ期のフィルムを米国ワシントンの議会図書館から購入し、フィルムの分析を行いました。2008 年は前期に2 回にわたってフィルムの上映および各作品に関するディスカッションを研究会の中で行いました。2008年度の後期には、明治期の日本の映画館に関する研究会を開きましたが、これも研究員の目下執筆中の論文の一部を発表していただく会でした。この研究は、とりわけ日本の初期映画史ということで重要性があり、我々としてはこの研究員の研究を、より広く、初期の日本映画のフィルモグラフィーの作成というプロジェクトにつなげていくつもりです。これに関しては2009 年度から始める予定ですが、具体的な形にして出版することを計画しています。
演劇研究と映画研究の融合については、すでに2007 年度に国際研究集会を開きました。また先ごろ、オペレッタと映画における夢幻劇に関しての研究会を開きました。これに関しては映画史研究のほうが主体になって進めております。来年度は映画におけるジャポニズムとオリエンタリズムについての国際研究集会を企画しており、すでに海外の研究者と連絡を取り合っています。この研究集会の主題には当然演劇の問題も入ってくることになります。
映画史研究は演劇史研究とは違って、実際の作品を見ることができるという長所を持っています。しかし、市販のビデオやDVD だけでは到底十分な研究はできません。映像研究コースで非常に努力しているのは、世界的にも貴重な映画作品を収集するということです。これまで、アメリカの議会図書館、ロシアのゴスフィリモフォンド、フランスのロブスター・フィルム、オーストリアのオーストリア映画アーカイヴおよびオーストリア映画博物館といった機関が我々の活動に協力してくれました。目下フィルムの購入に協力してもらっているのはアムステルダムにあるオランダ映画博物館です。とりわけ日本にとって重要な作品を間もなく我々はここから入手できるはずです。また、フィルムの発掘・復元と保存という、フィルムアーカイヴの仕事に近い活動も、行っています。現在オランダの現像所で2 本の貴重な35 ミリ可燃性フィルムの復元作業をしてもらっています。
また日本の現像所でも、1 本の長編映画と数本の短編映画の復元作業を行っています。作業が完了したのちに、これらの作品の上映会も行う予定です。
映画史研究の国際化という視野のもとに、海外の学生に対して日本の映画史に関心を持たせるということも、映像研究コースの重要な任務です。優れた学生が集まるような海外の映画祭の場を借りて、幾人かの学生の指導が行われました。その成果は予想よりも早く表れ、1 名の学生(スウェーデン、ストックホルム大学)が本年、文部科学省の給費留学生に選ばれ、来年度より早稲田大学の大学院で映画史を学ぶことになりました。研究の国際化はもちろんのこと、教育の国際化も大切なことは言うまでもありません。グローバルCOE プログラムの活動の成果として来日が決まったこのような優秀な学生には、しばらく日本にとどまってもらって、我々のもとで学位を取ってもらうということが大切であると思います。また我々もそうしたことを念頭に入れて、熱心に指導していくつもりです。
映像研究コースのこれからの計画ですが、基本的にはこれまでのプロジェクトは続行させていくつもりです。もちろんある程度目的を達成させたプロジェクトは閉じることも考えています。来年度には、新たに1910 年代の映画に関するプロジェクト、それからアメリカ映画に関するプロジェクトを立ち上げる予定です。またこれまで行ってきた中国プロジェクトも、そろそろ成果を発表できるようにしなければなりません。我々としては、これを外国の研究者とともに英文で発表することを考えています。
映画理論
2007 年度に続き、本プロジェクト統括者の武田潔文学学術院教授により、主として広義のメタ映画に関する研究として、映画テクストに現れる諸々の視覚的表象(鏡、絵画、写真、映画、テレビなど)の主題系についての論考を進めた。本年度は特に、鏡や各種の反映の形象が映画作品において果たす機能に焦点を当て、鏡をめぐる文化誌的な系譜から、映画的意味作用を特徴づける記号学的プロセスに至るまで、幅広い観点から検討を加えて、その成果を論文として発表した(武田潔「映画と鏡―映画作品における反映の形象について」、『演劇映像学2008』、早稲田大学演劇博物館グローバルCOEプログラム、2009年3 月)。
この間、引き続き関連する映画作品ソフトの収集に努め、具体的な表現の分析などに活用している。また、本年度も海外出張として、武田教授が2009年3月にパリに赴き、フランス国立図書館(BN)や公共情報図書館(BPI)等にて関係資料の調査・収集を行った。さらに、この出張期間中に、フランクフルトのゲーテ美術館も訪問し、映画と絵画の関係に関する研究の一環として必要となった、フュスリの作品の細部を確認する作業も行った。その成果も含め、2009年度には映画作品における絵画の主題系についての論文を発表する予定である。
活動報告
研究会
2008 年度に行われた研究会としては、2008 年5 月17 日、24 日、11 月29 日、12 月13 日の計4 回、行われた。具体的な内容は以下の通りである。
(1)(2)グリフィス作品研究会
日時:(1) 2008 年年5 月17 日(土)15:00 ~ 17:30
(2) 2008 年年5 月24 日(土)15:00 ~ 17:30
場所:戸山キャンパス31 号館310 教室
主催:映像研究コース
概要:上映作品:(すべて1909 年作品)
Lady Helen’s Escapade
The Medicine Bottle
The Salvation Army Lass
A Rude Hostess
The Note in the Shoe
A Sound Sleeper
A troublesome Satchel
The Suicide Club
A Baby’s Shoe
Two Memories
A Convict’s Sacrifice
The Slave
The Indian Runner’s Romance
With Her Card
His Wife’s Visitor
Oh, Uncle!
They Would Elope
Pranks
In Old Kentucky
Comata, the Sioux
A Fair Exchange
Leather Stocking
The Expiation
The Restoration
新規購入のD.W. グリフィス監督作品の上映会・研究会が5 月17 日と24 日、戸山キャンパス31 号館310 教室で開催された。上映作品は3 リールに分けられ(下記参照)、各リールの終了ごとに1 作品を取り出し、学生による簡単な解説をつけた。
すべてのリールの上映終了後、参加者達による作品全体に関するディスカッションを行った。ディスカッションの要点としては、非常に多様なジャンルの映画を毎週のように発表していたこの時期(1909 年)のグリフィスを、ジャンルという観点からどのように捉えるべきなのかということ、そして照明や編集などの技術・形式面での特徴的なイノヴェーションに関する理解もさることながら、これまであまり指摘されてこなかった、外国映画からの影響についても指摘された。
ヨーロッパ映画からの影響は、とりわけこの時期のグリフィス作品に顕著に見られるが、具体的な作品によってこれを検証する必要がある。グローバルCOEプログラムのグリフィス・プロジェクトはそうした具体的作品の分析のための非常によい機会を提供するものである。
(3)1900 年代における映画常設館の出現と変容
―電気館の改築をめぐって―(研究発表)
日時:2008 年11 月29 日(土)15:00 ~ 17:00
場所:戸山キャンパス31 号館310 教室
主催:映像研究コース
概要:(1)研究発表
タイトル:『1900 年代における映画常設館の出現と変容 ―電気館の改築をめぐって』)
発表者:上田学(グローバルCOE 研究員、立命館大学大学院博士課程)
(2)質疑応答
講師等:小松弘(グローバルCOE 事業推進担当者、早稲田大学文学学術院教授)
グローバルCOE 研究員である上田学氏による研究発表会(タイトル:『1900年代における映画常設館の出現と変容 ―電気館の改築をめぐって』)が開催された。具体的には、上田研究員より約一時間の研究発表が行われた後、質疑応答が行われた。まず事業推進担当者である小松弘教授より質問がなされ、その後、特に日本映画史を研究する各研究員等からも質問が提起されて、未解明の部分が多い日本初期映画史における1900 年代の映画館及びそこでの映画上映という現象に関して、積極的な議論が行われた。
上田研究員の発表の概要は以下の通りである。「日本最初の映画館として知られる電気館は、1903 年に浅草公園六区で映画常設館として開館し、その後に数度の改築を経て、戦後まで長らく浅草の代表的な娯楽施設であり続けた。本発表は、1903 年の開館から、1909 年の改築までの時期を対象に、改築にともなう電気館の構造的な変化が、映画興行全体の同時代的な変容と、どのように結びついていたのかを明らかにする試みである。なお分析に際しては、従来の研究であまり用いられることがなかった、電気館の内部に関する平面図を活用したい。また、電気館の改築が、1900 年代における映画の観客層と、どのように関連していたのかについても、あわせて考察する」。
(4)オペレッタと映画における夢幻劇
日時:2008 年12 月13 日(土)15:00 ~ 18:00
場所:戸山キャンパス 31 号館310 教室
主催:映像研究コース
概要:(1)フェリー(夢幻劇)の起源とオペレット・フェリー
発表者:森佳子氏(日本大学非常勤講師、グローバルCOE 研究員)
19 世紀初頭のフランスにおいて、フェリー(夢幻劇)はメロドラムから発生し、19 世紀中頃にそのピークを迎えた。それは奇想天外な台本と豪華なスペクタクルを特徴とするが、音楽的にも充実していたその内容については今日あまり知られていない。この劇が果たして「ジャンル」として成立しうるのか、そして後にオッフェンバックが自作の「オペレット・フェリー」においてそれをどのように取り入れたのかについて考察を行う。
(2)映画と夢幻劇
発表者:小松弘(グローバルCOE 事業推進担当者、早稲田大学文学学術院教授)
第二帝政期に絶頂期を迎えたフランスの夢幻劇は、その後バレエそして映画の中で生命を維持していく。この発表ではそもそも夢幻劇とは何であったのか、なぜ初期の映画がこの特異な劇の伝統を受け継いだのか、そしてなぜそれが1910年代の前半に突然姿を消してしまったのかを、具体的な映像を用いて検証する。
(3)初期夢幻劇映画数編の上映