2009年度活動報告
Ⅰ.概要映像研究コースでは、演劇研究と映画研究の融合ないし、国際的なレヴェルでの研究の交流を進めるため、2009 年度は日本演劇研究コースとの共同企画「研究報告会 文楽フィルム「日本の人形劇」」と国際研究集会「映画におけるジャポニズムとオリエンタリズム」を開催した。今後も、国際的に活躍しうる映画研究者(映像研究者)の育成を図るため、映画史、映画理論、TV ドラマに関する多彩な研究プロジェクトを軌道に乗せることで、総合的な教育・研究拠点の充実に努めたい。
■担当者
〈事業推進担当者〉
小松弘 早稲田大学文学学術院教授
武田潔 早稲田大学文学学術院教授
十重田裕一 早稲田大学文学学術院教授
長谷正人 早稲田大学文学学術院教授
岡室美奈子 早稲田大学文学学術院教授
藤井仁子 早稲田大学文学学術院専任講師
〈研究助手〉
後藤大輔 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 研究助手
Ⅱ.活動報告(研究会)
(1) 2009 年12 月22 日(火)13:00 ~ 16:30 頃終了「研究報告会 文楽フィルム「日本の人形劇」」
早稲田大学小野記念講堂(小野梓記念館地下2 階)主催:日本演劇研究コース・映像研究コース
13:00 ~ 13:05 挨拶
竹本幹夫(GCOE 拠点リーダー/ 演劇博物館館長・早稲田大学教授)
13:05 ~ 13:20 「文楽フィルムとアルベール・カーン博物館」
武田 潔(GCOE 事業推進担当者/ 早稲田大学教授)
13:20 ~ 13:40 「文楽フィルムの映画史的意義」
小松 弘(GCOE 事業推進担当者/ 早稲田大学教授)
13:40 ~ 15:00 上映と解説
桜井 弘(GCOE 客員講師)
15:15 ~ 16:15 「文楽フィルムから見えるもの」
内山美樹子(GCOE 事業推進担当者/ 早稲田大学教授)
菊池 明(財団法人逍遙協会理事)
桜井 弘
[企画趣旨]
早稲田大学演劇博物館グローバルCOE は、2009 年度にフランスのアルベール・カーン博物館より人形浄瑠璃文楽の映画フィルム3 巻(35 ミリ・モノクロ・音声無・約42 分)を購入した。このフィルムは、1921(大正10)年7 月に撮影され、翌8 月に東京・明治座で7 日間だけ公開された松竹キネマ製作の短編映画「文楽座人形浄瑠璃」(図版参照)をもとに、後年、そこに数カットを付け加えたヴァージョンが、フランスに輸出されたものと考えられる(詳細な経緯は不明)。映像には、二代豊竹古靱太夫(後の豊竹山城少掾)、三代鶴沢清六、初代吉田栄三、三代吉田文五郎(後の吉田難波掾)ら、大正後期に活躍した錚錚たるメンバーの顔が見え、現存する文楽に関する映像の中でも最も古く、かつ最も収録時間が長いものと思われる。約80 年ぶりにお里帰りしたこの映像は、文楽研究のみならず初期の日本映画研究の第一級資料であり、今後、演劇と映像の両面からさらに研究が進められるべきものであるが、映像を見ながら現段階での研究成果を報告するものである。
(2) 2009 年11 月9 日(月)、10 日(火) 「国際研究集会 映画におけるジャポニズムとオリエンタリズム」
早稲田大学小野記念講堂(小野梓記念館地下2 階)主催:映像研究コース
【プログラム】
11 月9 日(月)
10:00 ~ 10:05 開会挨拶
竹本幹夫(GCOE 拠点リーダー/演劇博物館館長・早稲田大学教授)
10:05 ~ 11:05 基調講演
ローランド・ドメニグ(ウィーン大学)
「両大戦間のヨーロッパ映画における日本のイメージ」
11:15 ~ 12:15 基調講演
マリアン・レヴィンスキー(チューリヒ大学)
「蝶々、夫人ではなく 1900 年― 1910 年のヨーロッパのシネマとグラフィーにおける日本、日本趣味、ジャポニズム」
13:30 ~ 14:30 GCOE 研究員による研究発表
土田 環 「1950 年代のヨーロッパおよびアメリカ映画におけるインドの表象」
碓井みちこ 「写し絵とは何か?」
14:40 ~ 17:00 映画上映
第一セッション「フェイク・ドキュメンタリー」(パテの日露戦争映画他)
第二セッション「ドキュメンタリー」(日本の光景、中国の光景他)
第三セッション「イタリア、ドイツにおけるジャポニズム、オリエンタリズム」(蝶々、メスターの日本劇他)
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11 月10 日(火)
10:00 ~ 11:00 基調講演
マッツ・カールソン(シドニー大学)
「西洋映画におけるオリエントのエロス化」
11:10 ~ 12:15 基調講演
小松 弘(GCOE 事業推進担当者/早稲田大学)
「透明なものを通しての異国趣味 パテ・フレールの日本映画に彼らが見たものと我々が見るもの」
13:30 ~ 14:30 GCOE 研究員による研究発表
山本 律 「1980 年代における張芸謀・陳凱歌の活躍――中国映画産業の変貌より――」
志村三代子 「蝶々夫人の表象 Madame Butterfly(1932)を事例として」
14:40 ~ 17:00 映画上映
第四セッション「フランスの日本劇」(「娘と盗賊」「大名の裏切り」他)
第五セッション「ヴィクトラン・ジャッセにおけるジャポニズムとオリエンタリ
ズム」(「ジゴマ第二篇、ニック・カーター対ジゴマ」、「カリの首飾り」)
第六セッション(「アメリカの日本劇」「日本の田園詩」他)
【開催報告】
映画の歴史研究および地域研究の観点から、欧米の映画が日本および東洋をいかに捉えたかを探る研究集会。3 人の外国人研究者を迎え、事業推進担当者を合わせて4 人が基調講演を行った。グローバルCOE 研究員4 人が、自己の研究テーマの観点から研究集会のテーマについての研究を報告した。各日とも、午後に関連映画の上映と、上映作品に関する解説がなされた。
(3) 2009 年6 月20 日(土)14:40 ~ 17:00 「映像におけるジャポニズムとオリエンタリズム」研究会 早稲田大学戸山キャンパス31 号館310 教室 主催:映像研究コース
作品上映および討論
「異境の親」His Birthright(1918 年)オランダ映画博物館提供
「勇気ある卑怯者」The Courageous Coward(1919 年)オランダ映画博物館提供
「タイフーン」Typhoon(1914 年)
【開催報告】2009 年11 月開催の国際研究集会「映画におけるジャポニズムとオリエンタリズム」に向けて、研究会が開催された。映画におけるジャポニズムとオリエンタリズムという観点から三本の作品が上映され、事業推進担当者とグローバルCOE 研究員の間で活発な議論が交わされた。
(4) 2009 年5 月23 日(土)14:40 ~ 16:40 アンドレ・ゴドロー氏(モントリオール大学)講演会“New Perspective on the Moving Image at the Turn of the 20th Century” 早稲田大学戸山キャンパス31 号館310 教室 主催:映像研究コース
【開催報告】
題目にある‘at the Turn of the 20th Century’は、日本語にすると「20 世紀の変わり目における」ということだが、それは19 世紀から20 世紀の変わり目と、20世紀から21 世紀への変わり目の両方を指し示していることが、ゴドロー氏の話から理解された。ゴドロー氏の基本的な考え方は、映画なる概念は大体が両義的で曖昧としているというものである。例えば映画の呼称は、ある特定の時代、ある社会階層に応じて変化し続けてきた。また映画が上映される場所も、100 年の中で変化し続けてきた。その変動は現在も続いている。講演の後、参加者との活発な意見交換が行われた。