2011年度活動報告
Ⅰ概要映像研究コースは、映画史研究、映画理論、テレビドラマ研究と多岐にわたって映像研究を行ってきた。GCOE最後の年に当たる今年度は、これまで各プロジェクトで行ってきた研究の総仕上げを行った。
映画史研究では、初期映画の復元を最重要の課題として行ってきた。本年はその総仕上げともいえる上映会「復元上映『レ・ミゼラブル』―アンリ・フェスクール監督(1925年)」を行った。また、中国国内における研究では見過ごされている初期映画史に注目し、日本における初期中国映画研究を世界的にも新たに認識させるため国際研究集会「中国映画史への新たな視点」を開催した。
本年度の全体企画国際研究集会のテーマ「ACTING-演じるということ」に関して、映画史研究コースにおいても通年で準備を進めた。コースリーダーの小松弘教授が、本年9月末にフランクフルトで行われたアスタ・ニールセン国際シンポジウムに出席し、1910年代の日本の映画俳優の演技に与えたアスタ・ニールセンの演技の影響に関して講演を行った。この主題は年度末のGCOE国際研究集会において、さらに発展されて論じられた。また、明治期の映画資料九島コレクションを用いて、日本における明治期の映画と演劇の興行面での接点について理解を深めるための研究会を行った。これは日本演劇の研究グループと共同で行われた。
担当者 
    〈事業推進担当者〉 
    小松弘   早稲田大学文学学術院教授 
    武田潔   早稲田大学文学学術院教授 
    十重田裕一 早稲田大学文学学術院教授 
    長谷正人  早稲田大学文学学術院教授 
    岡室美奈子 早稲田大学文学学術院教授 
    藤井仁子  早稲田大学文学学術院准教授 
〈研究助手〉 
    大傍正規 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE研究助手 
    山本律  早稲田大学演劇博物館グローバルCOE研究助手
    
    Ⅱ活動報告 
    Ⅱ―1、国際研究集会 
国際研究集会「中国映画史への新たな視点」 
日時:2012年1月14日(土)13時~17時10分 
場所:早稲田大学戸山キャンパス36号館681教室 
主催:映像研究コース 
「プログラム」 
    13:00~13:10 開会挨拶(GCOE事業推進担当者:小松弘) 
    13:10~13:40 研究発表「中国の映画揺籃期における映画上映」(GCOE研究助手:山本律) 
    13:40~14:40 講演及び映画上映「初期中国映画における他者のまなざし」(小松弘) 
    14:40~14:50 休憩 
    14:50~15:50 講演「早期記録英映画と国民革命映画档案試写シンポジウム」(上海大学教授:石川)(中国語:逐次通訳有) 
    15:50~16:00 休憩 
    16:00~17:00 討議 
    17:00~17:10 閉会挨拶(小松弘) 
「開催報告」 
    グローバルCOE映像コース(映画史)では、これまで5年間にも及ぶ中国における調査によって、数多くの映画資料を収集し、多くの研究者・収集家へのインタビューを行い、とりわけ戦前期の中国における映画文化の研究を行なってきた。このたびは、その中でも特に独自の研究と言える、最初期の中国映画史の問題について研究報告を行うと同時に、我々の研究に様々な示唆を与えてくださった、中国の著名な映画史家である石川(Shi Chuan)教授をお招きして、国際研究集会という形で中国映画史における、重要であるがこれまでほとんど明らかにされてこなかった問題について討議を行った。 
    議論の主題は、中国映画史の始まりに関する歴史データの問題、初期中国映画史と他者の問題、そして現存する清末民国期の中国を記録した映像が投げかける問題の三つである。各主題はそれぞれ講演形式で語られ、最後に総括的な議論を行った。 
Ⅱ―2、映画上映・研究会 
    「復元上映『ラ・ミゼラブル』―アンリ・フェスクール監督(1925年)」 
    日時:2011年6月18日10時~17時45分 
    場所:早稲田大学小野記念講堂(27号館小野梓記念館地下2階) 
    主催:映像研究コース 
「プログラム」 
    10:00~10:20 「『レ・ミゼラブル』の復元について」(GCOE事業推進担当者:小松弘)
    10:20~11:50 映画上映(第一部)
    11:50~12:10 研究報告「『レ・ミゼラブル』日本映画への移植」(GCOE研究生:谷口紀枝)
    12:10~13:10 休憩
    13:10~14:55 映画上映(第二部)
    14:55~15:15 研究報告「アルベール・カペラニ監督版 Les Misérables (1913) の映画史的意義」(GCOE研究生:小川佐和子)
    15:15~15:30 休憩
    15:30~17:15 映画上映(第三部)
    17:15~17:45 講演「映画『レ・ミゼラブル』とアンリ・フェスクール」 
「開催報告」 
    GCOE映像コース(映画史)では、1925年の大作フランス映画「レ・ミゼラブル」(邦題「噫無情」大正15年日本封切)を17.5ミリプリントよりデジタル復元した。1912年以来、世界中で何度も映画化されている「レ・ミゼラブル」であるが、このアンリ・フェスクール監督版は、数あるレ・ミゼラブル映画の中でも最もよくヴィクトル・ユーゴーの原作の雰囲気を伝え、映画作品としても芸術的に最も成功した作品であることが知られている。オリジナルの35ミリ・プリントは全4部構成で、上映時間も6時間に及ぶ大作となっている。1984年にパリのシネマテーク・フランセーズはオリジナル・ネガに基づき、この映画の復元版を完成させた。これは、1925年にフランスで一般上映された完全な形での復元プリントである。一方この映画は、アメリカではユニヴァーサル社によって配給・公開されたが、この際アメリカ公開用におよそ2巻分短縮されたアメリカ版が製作された。大正15年に日本で封切られたのも、このアメリカ版プリントであった。また、この映画は、映画館がない田舎や学校、その他個人の家などの場所で用いられていた、17.5ミリ映写機に使用されるフィルムとしても販売された。今回GCOEでデジタル復元を行ったのは、当時オランダで発売されたこの17.5ミリプリントである。「レ・ミゼラブル」の製作会社パテ・フレールは、この映画の17.5ミリ版を販売するにあたり、オリジナル・フィルム全体を再編集し、全3部構成の新たな版として販売した。
    シネマテーク・フランセーズが1984年に復元したアンリ・フェスクール版「レ・ミゼラブル」は、オリジナル・ネガから復元した非常に美しい画質を持つプリントであるが、ネガからの復元のため、一般に公開されたポジ・プリントにあった染色・調色が欠落している。17.5ミリプリントはおよそ5時間弱に短縮された再編集版ではあるが、公開時の色を保存している。この点をとっても、また我が国では1920年代以降一度も上映されていない傑作映画という点からも、GCOEによる今回のデジタル復元の試みとその上映は、大きな意味を持つものであった。
    復元版の上映と共にGCOE研究生2名による研究発表、事業推進担当者による解説も行った。また山本律(GCOE研究助手)が、オランダ語の中間字幕の日本語訳の読み上げを行った。 
Ⅱ-3、研究報告会 
    「第一回 韓国プロジェクト活動報告会」 
    日時:2011年7月16日(土) 15時~17時30分 
    場所:早稲田大学戸山キャンパス31号館310教室 
    主催:映像研究コース 
「プログラム」 
    15時~15時10分:「韓国プロジェクトについて」小松 弘(GCOE事業推進担当者)
    15時10分~15時40分:「韓国プロジェクト インタビュー報告」山本律(GCOE研究助手)
    15時40分~16時20分:「映画揺籃期の日本・韓国・中国における映画上映について」山本律 
    16時20分~16時30分:質疑応答
    16時30分~16時40分:休憩
    16時40分~17時20分:「韓国資料を通して知る日本の初期映画」小松弘 
    17時20分~17時30分:質疑応答 
「開催報告」 
    GCOE映像コース(映画史)ではこれまで中国プロジェクトとして上海租界における映画上映を中国映画史として捉えるべきか、あるいは全く独立した特異な地域の映画史として捉えるべきなのかという問題意識を持ちつつ、資料調査を行ってきた。一方、上海以上に日本映画史と接点を持ちうる可能性があるのが、韓国における初期映画状況であるという仮説のもと、韓国プロジェクトを決行した。具体的にはいまだあまり研究がなされていない初期韓国映画史について韓国の映画学者にインタビューするということ、そして韓国に存在する資料(主として韓国語と日本語の新聞)によって、映画記事を調査すること、この二つの仕事が実行された。ごく短い滞在であったにもかかわらず、予想以上の成果を上げることが出来、この分野の研究の将来へ橋渡しする調査になった。とりわけ、初期日本映画研究においてこれまでまったく着手されていなかった韓国調査を行い、それによって得られた成果は、今後の初期日本映画史の調査方法に関する仮設を構築するのに役立つに違いない。本研究会では、韓国における初期映画研究に関するインタビューから得られた情報、韓国における映画史調査と中国映画史における関連、そして韓国映画史から見られた初期日本映画研究といった題目で、韓国プロジェクトの報告を行った。 
Ⅱ―4、研究会 
    九島プロジェクト研究会 
第一回 
    日時:4月9日(土) 14時~16時 
    場所:早稲田大学戸山キャンパス31号館313教室 
    第二回 
    日時:4月23日(土)13時~15時 
    場所:早稲田大学戸山キャンパス31号館313教室 
    第三回 
    日時:5月7日(土) 15時~17時 
    場所:早稲田大学演劇博物館洋書閲覧室 
    第四回 
    日時:5月28日15時~17時 
    場所:早稲田大学戸山キャンパス31号館313教室 
    第五回 
    日時:7月9日(土)15時~17時 
    場所:早稲田大学戸山キャンパス31号館313教室 
    第六回 
    日時: 10月15日(土) 15時~17時 
    場所:早稲田大学戸山キャンパス31号館 311教室 
    第七回 
    日時: 11月19日(土) 15時~17時 
    場所:早稲田大学戸山キャンパス31号館 311教室 
「開催報告」 
    明治期の札幌興行界の雄、九島興行に残されていた興行関連資料、書簡などを研究会参加者で読み解いていった。 
「九島プロジェクトメンバー」 
    小松弘(GCOE事業推進担当者)、児玉竜一(GCOE事業推進担当者)、寺田詩麻(GCOE研究協力者)、大傍正規(GCOE研究助手)、山本律(GCOE研究助手)、上田学(GCOE研究生)、小川佐和子(GCOE研究生)、谷口紀枝(GCOE研究生)、日置貴之(GCOE研究生) 
    
 
  




 

