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2007年度活動報告

Ⅰ.概要
日本演劇研究コースは、事業推進担当者四名が、能楽(担当:竹本幹夫)、人形浄瑠璃(担当:内山美樹子)、日独比較演劇(担当:ギュンター・ツォーベル)、
近世演劇および民俗芸能(担当:和田修)に関わる研究事業を推進し、日本の近現代演劇については、西洋演劇・東洋演劇・芸術文化環境の諸分野との共同研究を構想している。それぞれの研究プロジェクトで、適宜に客員教員の協力を仰ぎ、調査研究とグローバルCOE 研究員の研究指導を行っている。能楽については、21 世紀COE の成果であった古態の翁猿楽の復元舞台がNHKで再演され、放映された。また加賀藩の能楽史研究の一環として第5代藩主前田綱紀の小姓であった『葛巻昌興日記』の延宝年間分を通読する研究を行なった。さらにヨーロッパ・中国の演劇研究拠点を結ぶ演劇舞台の比較研究のために、後記の集中講座・研究交流事業を企画した。継続調査中の吉田文庫
文書調査に関しても、若手研究者のチームによる出張を行った。人形浄瑠璃文楽については、伝承に関する研究を21 世紀COE より継続するとともに、21 世紀COE では扱ってこなかった人形の演技、および「文楽と映像」という新たな観点による研究を開始した。
また21 世紀COE では「アーカイブ構築研究(演劇)コース」でおこなっていた民俗芸能の調査・記録を、日本演劇研究コースにおいて継続している。文弥節人形浄瑠璃の伝承地において調査と記録をおこなうなど、近世演劇研究と民俗芸能研究との総合的研究を進めている。その他、コースに所属する留学生を対象に、古典ゼミを定期的に開催している。2007 年度の各プロジェクトの活動詳細は、以下の通りである。


■担当者
〈事業推進担当者〉
竹本幹夫 早稲田大学文学学術院教授
内山美樹子 早稲田大学文学学術院教授
ギュンター・ツォーベル 早稲田大学政治経済学術院教授
和田修 早稲田大学文学学術院准教授


〈客員講師〉
飯島満 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師、東京文化財研究所主任研究員
川口節子 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師、目白大学非常勤講師
桜井弘 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師
鈴木英一 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師(2007 年度まで)
平林一成 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師
古井戸秀夫 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員教授、東京大学教授
ペトル・ホリー 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師(2007 年度まで)、チェコセンター所長
三宅晶子 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師(2007 年度まで)、横浜国立大学教授
山中玲子 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師(2007 年度まで)、法政大学教授
李墨 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師(2008 年度より)


〈専任研究協力者〉
勝方恵子  早稲田大学国際教養学術院教授


〈客員研究助手〉
埋忠美沙  早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員研究助手


Ⅱ.プロジェクト別活動報告

1.能楽(竹本幹夫)
●散楽シンポジウム
2007 年12 月7 日(金)~ 9 日(日) 大隈小講堂
○ 12 月7 日(金)【日本の古典的仮面劇】
基調講演「散楽と仮面」 竹本幹夫(早稲田大学)
「能・狂言面データベースの課題と可能性」 大谷節子(神戸女子大学)
「鬼神面の系譜」 宮本圭造(大阪学院大学)
「歌舞能形成における能面の役割」 三宅晶子(横浜国立大学)
「時代による能面の変遷」 江口文恵(早稲田大学)
「翁系仮面をめぐる二、三の問題」 天野文雄(大阪大学)
「越境の場としての仮面:狂言とコメディア・デラルテにおける人間性の超越」 スタンカ・ショルツ・チョンカ(トリア大学)
○ 12 月8 日(土)【中国を中心とするアジアの仮面劇】
基調講演「中国における仮面芸能の諸相」 細井尚子(立教大学)
「中国の古代祭礼における仮面」 周華斌(中国伝媒大学)
「中国の中世演劇と仮面」 黄竹三(山西師範大学)
「演劇発生学における四目仮面―中・日・韓“方相氏”文化比較研究」 曹琳(南
通市文化局芸術研究所)
「朝鮮の仮面芸能とその系譜」 李應壽(世宗大学校)
「アジア密教圏の仮面―チベット・モンゴルのチャム」 木村理子(東京大学)
「琉球文化における仮面芸能」 板谷 徹(沖縄県立芸術大学)
○ 12 月9 日(日)【ヨーロッパ文化圏の仮面劇】
基調講演「ヨーロッパ文化圏の仮面劇」 ギュンター・ツォーベル(早稲田大学)
「ディオニソスの仮面」 コナー・ハンラティ(アテネ大学)
「古代ギリシャ仮面のインドにおける原型―東インドにおけるチャウの仮面と古
代ギリシャ仮面の比較研究」 ゴウリ・ニラカンタン(ウィーガン&リー大学)
「後期共和制ローマにおける仮面―欺瞞の中心」 スタイン・ブッセルス(ライデ
ン大学)
「アルプスの民俗芸能―日本の仮面劇と比較して」 フランツ・グリースホー
ファー(オーストリア民俗博物館)
パネルディスカッション「演劇における仮面の意味」

●研究会「いま読み解く狂言―釣狐」(能楽学会との共催)
2007 年12 月10 日(月)18:00 ~ 20:30 国際会議場第2 会議室
講師:山本則俊(大蔵流狂言師)
羽田昶(武蔵野大学能楽資料センター長・武蔵野大学教授)
まず羽田氏による狂言の秘曲〈釣狐〉についての総括的な発表があり、現在この作品について知られる情報を網羅することを通じて、本曲の持つ問題点や魅力について、論じられた。引き続いて、則俊師の提供された〈釣狐〉の舞台映像(山本則重師ほか出演)を見ながら、この曲の主要な秘伝についての分析を行い、能の〈道成寺〉に匹敵するとされる〈釣狐〉の構造を論じられた。プロの狂言役者による克明な秘伝開陳というのはこれまで例がなく、非常に興味深い発表となった。

●集中講座「中国演劇史(古代~中世)」
2008 年2 月21 日(木)10:00 ~ 12:00 14:00 ~ 16:30
2 月22 日(金)10:00 ~ 12:00
2 月25 日(月)10:00 ~ 12:00
2 月26 日(火)10:00 ~ 12:00 14:00 ~ 16:30
2 月27 日(水)10:00 ~ 12:00
大隈記念タワー26 号館地下多目的講義室
講師:黄竹三(山西師範大学教授)
前近代の日本演劇において中国演劇は、その形態・作品等に多くの影響を及ぼしてきたが、日本演劇研究者にとり中国演劇史、とりわけ古代から中世にかけての理解は言語の問題もあり十分とは言えない。そこで日本演劇研究コースの研究員を主たる対象に、古代から中世にかけての中国演劇研究で多くの成果をあげている黄竹三氏に、15 時間の集中講義をお願いした。豊富な学識と中国各地の実地踏査に基づく講義は、日本演劇研究をより深化される点で非常に有意義なものであった。また多く詰めかけた中国演劇の研究者にとっては、最新の研究動向に関する考察を得る好機となり、活発な質疑応答が繰り広げられた。

●チェコプロジェクト
これまでの数次にわたる成果をうけて、あらたなコンセプトでチェコ・プロジェクトが企画され、3 月6 日から18 日にかけてプラハならびに近郊で研究活動が展開された。歌舞伎や京劇についてのワークショップは鈴木英一、李墨の両氏が、日本演劇についての研究交流集会は伊藤洋、三宅晶子のお二人が、またチェコ演劇に関する資料調査はおもに秋葉裕一、丸本隆、W. シュレヒト、E. グロスマンといった陣容で、それぞれに役割を分担しながら活動することとなった。日本古典演劇研究コースの研究者に西洋演劇研究のグループが加わったところが、今回の新味と言えようか。チェスキー・クルムロフ城内のバロック劇場調査にはほぼ全員が参加し、修復総監督であるパヴェル・スラフコ氏の協力を得
て、下検分の段階ながら、書庫の調査にも着手できた。収蔵図書は膨大な冊数であり、今後の調査にはとくにラテン語の堪能な研究者が必要となろう。チェコセンターのペトル・ホリー所長の周到にして細心な準備のおかげで、演劇都市プラハの一端を垣間見ることが出来たのは、ありがたいことだった。ここに謝意を表したい。なお、2008 年11 月にはスラフコ氏を日本に招聘し、バロック劇場についての連続セミナーを実施する予定である。

●韓国仮面戯の調査(東洋演劇コースとの共同調査)
2008 年1 月31 日(木)~ 2 月3 日(日)
メンバー:竹本幹夫、板谷徹(沖縄県立芸術大学)、細井尚子(立教大学)、佐藤和道(演劇博物館助手)、田村容子(演劇博物館助手)

●『葛巻昌興日記』輪読
2007 年 4 月28 日(土)第1 回 延宝五年分
5 月19 日(土)第2 回 延宝五年分
6 月30 日(土)第3 回 延宝五年分
7 月21 日(土)第4 回 延宝五年分
9 月 8 日(土)第5 回 延宝六年分
10 月 6 日(土)第6 回 延宝六年分
11 月24 日(土)第7 回 延宝六年分
2008 年 1 月12 日(土)第8 回 延宝六年分
2 月16 日(土)第9 回 延宝七年分
3 月28 日(金)第10回 延宝七年分(途中まで)
会場:演劇博物館応接室ほか。時間は13:00 ~ 15:00

2.人形浄瑠璃文楽(内山美樹子)
●グローバルCOE 研究会
演劇研究と映像研究の統合をめざすGCOE の中での「人形浄瑠璃文楽」コースは、21 世紀COE のテーマであった伝承に関する研究に加えて、「文楽と映像」という新たな観点から文楽という芸能を考えてみた。まず今年度は、文楽に関して過去に撮影された映像(劇場映画、文化映画、テレビ中継、記録映像など)の情報を収集・整理することから始めた。また、文楽の視覚的な要素である人形の演技については、21 世紀COE ではほとんど取り上げることができなかったので、まず「立役」の人形について考察を開始した。「人形浄瑠璃文楽」コースは、21 世紀COE より引き続き、定期的に研究会を開催した。2007 年度の開催記録は以下の通りである。

○第1 回
2007 年10 月23 日(火)19:00 ~ 22:00 33-2 号館演劇映像第2 専修室
(1)「21 世紀COE 浄瑠璃研究会」と「グローバルCOE 人形浄瑠璃文楽研究会」について
(2)文楽と映像―「夏祭浪花鑑」をめぐって―
(3)「夏祭浪花鑑・長町裏」の原作と現行台本
○第2 回
2007 年11 月27 日(火)19:00 ~ 22:00 33-2 号館演劇映像第2 専修室
文楽と映像―「伊賀越道中双六」岡崎の段をめぐって―
・昭和54 年10 月朝日座公演の意義
・「岡崎の段」の伝承
・「岡崎の段」の音声・映像資料について
・昭和50 年代の文楽について
(付)近松門左衛門作「信州川中島合戦」の『近松全集』『近松浄瑠璃集 下』翻刻について
○第3 回
2007 年12 月26 日(水)19:00 ~ 22:00 33-2 号館演劇映像第2 専修室
人形浄瑠璃文楽の上演形態について― 12 月東京・文楽公演をめぐって―
・文楽鑑賞教室と若手公演の意義
・浄瑠璃における「掛合」の是非
・「座摩社の段」と「野崎村の段」の上演台本
・「染模様妹背門松」と「新版歌祭文」
・「油屋(飯椀)の段」の上演史と演出
○第4 回
2008 年1 月22 日(火)19:00 ~ 22:00 33-2 号館演劇映像第2 専修室
文楽と映像(3)
(1)文化映画(記録映画)の中での「文楽」
(2)映像に残る文楽の芸の意味と価値
(3)戦後の文楽を支えた人形遣い
○第5 回
2008 年3 月25 日(火)19:00 ~ 22:00 33-2 号館演劇映像第2 専修室
文楽と映像(4)
(1)映像の中に残る文楽―『吉田栄三自伝』『義太夫年表』「都新聞」などから―
(2)海外の機関に残る映像資料について
●特別研究会「越前風の伝承について―『和田合戦女舞鶴』を聞く―」
2008 年3 月24 日(月)13:00 ~ 15:00 39 号館5 階第6 会議室
講師:豊竹英大夫
人形浄瑠璃文楽コースでは、人形浄瑠璃文楽の伝承に関する研究を基本テーマとして、伝承が途絶えている浄瑠璃の復曲に取り組んできた。その一環として、今回の研究会では、2005 年3 月に「酒呑童子枕言葉」鬼ヶ城対面の段を復曲奏演された豊竹英大夫師をお招きして、「和田合戦女舞鶴」市若初陣の段を取り上げ、研究会を行った。
●特別研究会「文楽の人形―立役編―」
2008 年3 月26 日(水)14:00 ~ 16:00 39 号館6 階第7 会議室
実演:吉田玉女、吉田玉佳、吉田玉勢
人形浄瑠璃文楽を構成する要素の一つである「人形」を取り上げ、研究会を行った。お招きした人形遣い吉田玉女師ほかにより、立役人形の内部構造と遣い方の説明を交えながら、三人遣いが実演された。特に、通常公開されることのない、主遣いによる人形の着付けや、客席からは窺い知ることのできない主遣いと足遣いの綿密な連繋などが披露されたことにより、人形遣いの高度な技を、再確認することができた。
● CD『人間国宝 義太夫九代目竹本綱大夫「木下蔭狭間合戦」壬生村の段』発売
2005 年5 月30 日、早稲田大学小野記念講堂で開催されたCOE 公開講座「浄瑠璃」において、「木下蔭狭間合戦」壬生村の段が竹本綱大夫(人間国宝)・鶴澤清二郎両師により85 年ぶりに復曲演奏された。この時の音源が、CD となってコロムビアミュージックエンタテインメント株式会社から発売された。
CD1 枚 解説リーフレット(16 頁)付 (COCJ-34039)
録音時間:65 分21 秒
協力:早稲田大学坪内博士記念演劇博物館
早稲田大学21 世紀COE プログラム「演劇の総合的研究と演劇学の確立」
発売元:コロムビアミュージックエンタテインメント株式会社
価格:2,940 円(税込) 発売日:2008 年1 月23 日



3.日独比較演劇(担当:ギュンター・ツォーベル)
●講演会「典礼とパフォーマンス」
2007 年12 月11 日(火) 大隈記念タワー303 会議室
講師:フランツ・グリースホーファ氏(ウィーン民族博物館前館長・ウィーン大学名誉教授)
日本の人々には、クリスマスはキリスト教の祭礼としてしか意識されないことが多いのではないだろうか。だが、このキリスト降誕を祝う儀式慣習の背景には、興味深い民俗事象が数多く見出される。今回の講演では、オーストリア民俗博物館所蔵の貴重な博物資料をご紹介いただいた。クリスマスのオーナメントは、聖なるものであると同時に、聖書のさまざまな場面を演劇的に表現するものでもある。そしてまた、美しい自然を背景とする民衆の生活ぶりを、ときにはユーモアを交えながら記録にとどめるものでもある。
グリースホーファー教授は、オーストリア及びアルプス系ドイツ文化圏における仮面劇や民衆劇に関する研究では、めざましい業績で知られている。本講演によって、GCOE プロジェクトの重要課題である「典礼とパフォーマンス」に関し、ヨーロッパの民俗も比較検討の対象として、研究のさらなる深化と今後の指針を得ることができた。


4.近世演劇および民俗芸能(和田修)
●鹿児島にて古浄瑠璃人形の上演会を開催
2008 年3 月2 日(日)14:00 ~ 15:20 薩摩川内市東郷公民館
上演演目:源氏烏帽子折
三段目 鞍馬下りの段
二段目 常盤御前雪の段
三人遣いによる義太夫節人形浄瑠璃以前の浄瑠璃操りの面影を現在に伝える、いわゆる古浄瑠璃人形(文弥人形など)は、現在、新潟県佐渡市・石川県白山市・宮崎県都城市(山之口)・鹿児島県薩摩川内市(東郷)に伝承されている。早稲田大学はこれらの古浄瑠璃人形とは古くからご縁があり、21 世紀COE のアーカイブ構築研究コースでも、2003 年10 月に大隈講堂に佐渡と東郷の文弥人形伝承者を招いて比較上演をお願いした。また2006 年3 月には、佐渡で公開収録を実施し、近松初期の2 作品をノーカットで丸2 段ずつ上演していただいた。グローバルCOE では、日本演劇研究コースの活動の一環として、東郷文弥節人形浄瑠璃保存会との共催による特別上演会が実現した。折から保存会が国の無形文化財指定の内示を受け、地元テレビの特別番組などの影響もあって、500 人収容の公民館に立ち見が出るほどの盛況の中で、無事収録を行うことができた。


5.その他
●留学生のための古典ゼミ
2007 年11 月20 日(火)16:30 ~ 18:00 国際会議場共同研究室1
11 月28 日(水)13:00 ~ 16:00 国際会議場共同研究室2
12 月11 日(火)11:00 ~ 14:00 国際会議場共同研究室2
2008 年1 月29 日(火)16:30 ~ 18:30  国際会議場共同研究室2
2 月28 日(木)18:00 ~ 20:00  国際会議場共同研究室2
講師:平林一成
大学院博士課程の留学生を主たる対象としたゼミであり、演習内容には以下の三本の柱がある。
第一に、『百人一首』の個人発表。これは、発表者が一首を選び、各々の着眼点に即して自由に論ずるものである。
第二に、古典(物語・説話・歌論書等)の読解、及び、参加者による討論。
第三に、近代文学の読解、及び、参加者による討論。
毎回、これら三種の内容を積み重ねているが、参加者が読解に慣れるに従って、討論も活発になり、日本の研究者が暗黙の了解事項として見過ごしがちな点にも、鋭い言及が成されるようになってきた。今後とも、日本文化の特質を国際的に捉える視点を保ちつつ、カリキュラムの更なる充実・向上を図っていきたい。

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