2009年度活動報告
Ⅰ.概要日本演劇研究コースは、事業推進担当者三名が、能楽(竹本幹夫)、人形浄瑠璃(内山美樹子)、近世演劇および民俗芸能(和田修)に関わる研究事業を推進した。また国際的な視野の下、西洋演劇研究コースや東洋演劇研究コース、映像コースなど複数コースにまたがる共同研究を実現した。これらについては他コースの活動報告も参照されたい。それぞれの研究プロジェクトで適宜に客員教員の協力を仰ぎ、調査研究とグローバルCOE 研究生の研究指導を行っている。2009年度の各プロジェクトの活動詳細は以下の通りである。
■担当者
〈事業推進担当者〉
竹本幹夫 演劇博物館館長、早稲田大学文学学術院教授
内山美樹子 早稲田大学文学学術院教授(2009 年度まで)
和田修 早稲田大学文学学術院准教授
児玉竜一 早稲田大学文学学術院教授(2010 年度より)
〈客員教員〉
飯島満 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師、東京文化財研究所主任研究員
金子健 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員次席研究員(2009 年度まで)
川口節子 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師
桜井弘 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師(2009 年度まで)
平林一成 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師(2009 年度まで)
古井戸秀夫 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員教授、東京大学教授
〈研究助手〉
埋忠美沙 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 研究助手(2009 年度まで)
原田真澄 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 研究助手(2010 年度より)
Ⅱ.プロジェクト別活動報告
1 能楽(竹本幹夫)
東洋演劇コースや西洋演劇コースと協力して行う舞台構造の国際比較研究、および上海演劇と日本近代演劇の比較研究、中国演劇研究者の協力を仰ぎつつ進める散楽の源流に関する研究、加賀藩の能楽史を中心とする江戸時代諸藩の能楽研究、以上を大きな柱として、研究を進めた。2009 年度の活動詳細は以下の通りである。
1. 1 日中欧の舞台構造の比較研究プロジェクト
西洋演劇コースや東洋演劇コースなどと連携して、舞台構造に関する国際共同研究を推進している。昨年度に引き続き、チェコおよび中国との研究交流事業をおこなった。
(1)チェコプロジェクト
2007 年度に続き、チェスキークルムロフ城内劇場の調査と撮影を行った。また、同城内博物館所蔵のラテン語演劇文献、ドイツ語の領主日記類の調査、撮影を行った。
日時:2009 年8 月23 日(日)~ 2009 年8 月31 日(月)
(2)中国プロジェクト
演劇舞台構造の国際比較研究会
拠点リーダーの竹本が分担する特定領域研究「散楽の源流と中国の諸演劇・芸能・民間儀礼に見られるその影響に関する研究」の研究成果発表をも一部で兼ねて、日本と中国を対象に「演劇・芸能における舞台及び劇場の発生」というテーマに従って研究者が発表および討論を行った。中国からは中国古代・中世演劇の専門家、日本からは能・歌舞伎の研究者が参加して、それぞれの分野において、舞台と劇場がいかに発生し、発展したかを論じた。詳細については「演劇映像学2009 報告集2」所載の「国際シンポジウム「演劇舞台構造の国際比較研究会」報告」を参照されたい。
1. 2 定例研究会「加賀藩研究会」
日程:第11 回2009 年4 月4 日(土) 発表者:柳瀬千穂(GCOE 研究生)
第12 回2009 年5 月9 日(土) 発表者:江口文恵(GCOE 研究生)
第13 回2009 年6 月20 日(土) 発表者:中尾薫(GCOE 研究生・演劇博物館助手)
第14 回2009 年7 月25 日(土) 発表者:中尾薫
第15 回2009 年9 月5 日(土) 発表者:中尾薫
第16 回2009 年10 月17(土) 発表者:深澤希望(GCOE 研究生)
場所:6 号館演劇博物館応接室、他
内容: 加賀藩の能楽史研究の一環として、第五代藩主前田綱紀の小姓であった葛巻昌興の日記の通読をおこなった。
2 人形浄瑠璃文楽(内山美樹子)
人形浄瑠璃文楽コースでは、21 世紀COE に引き続き、伝承が途絶えている浄瑠璃の復曲に取り組んだ。2009 年はその成果として、公開講座「浄瑠璃」において稀曲「和田合戦女舞鶴」市若初陣の段を奏演した。さらにフランスのアルベール・カーン博物館で文楽最古の映像を発見し、映像コースとの共催で研究報告会を行った。また、本年度も多数の研究生と客員講師が参加する定例研究会を、昨年度に引き続き開催した。2009 年度の活動詳細は以下の通りである。
2. 1 定例研究会「人形浄瑠璃文楽研究会」
日時:毎月第四火曜、19:00 ~ 22:00
場所:戸山キャンパス33-2 号館演劇映像第2 専修室
第16 回 2009 年4 月28 日(火)
(1)1990 年代の文楽
(2)通し狂言における復活場面への取り組みについて
―昭和47 年5 月「菅原伝授手習鑑」安井汐待の段の場合―
(3)朝日座文楽公演における相三味線組み替えの試みについて
―昭和50 年10 月「本朝廿四孝」勘助住家の段の場合―
第17 回 2009 年5 月26 日(火)
(1)文楽の映像―昭和5 年3 月四ツ橋文楽座のニュース映像―
(2)1960 年代の文楽―若大夫・勝太郎・紋十郎の「合邦」―
・上演台本について
・「合邦」における語りとドラマ・・・若大夫・勝太郎の奏演
・紋十郎の玉手御前・・・人形の演技と演出
第18 回 2009 年6 月23 日(火)
(1)「鬼一法眼三略巻」復活準通し上演の台本について
(2)1966 年国立劇場開場記念文楽公演における二つの襲名披露
第19 回 2009 年7 月28 日(火)
(1)文楽と映像(8)
・フィルム購入の経緯
・映像の解像度と情報
・映像と音声―妹背山婦女庭訓の場合―
第20 回 2009 年9 月29 日(火)
(1)越前風の伝承(5)
・「市若初陣の段」と「日向島の段」からみた越前風について
・「市若初陣の段」の上演台本について
第21 回 2009 年10 月27 日(火)
(1)浄瑠璃の「風」の問題
・「市若初陣の段」と「引窓の段」からみた浄瑠璃の「風」について
(2)文楽と映像
・『映画年鑑』に記された「文楽座人形映画(艶容女舞衣)」について
第22 回 2009 年11 月24 日(火)
(3)浄瑠璃の「風」の問題
・「芦屋道満大内鑑」葛の葉子別れの段の「大和風」の伝承
・山城少掾・清六、つばめ大夫・喜左衛門、越路大夫・弥七の奏演をめぐって
第23 回 2009 年12 月22 日(火)
(1)文楽フィルム「日本の人形劇」の今後の課題
(2)義太夫節の伝承の問題
・「嬢景清八嶋日記」花菱屋の段をめぐって
・花菱屋の段の詞章の解釈をめぐって
第24 回 2010 年1 月26 日(火)
(1)演劇博物館企画展示「並木宗輔展」をめぐって
・関連演劇講座「秀衡館」について
・漢詩集『三原集』(三原市立中央図書館蔵)のこと
・並木宗輔の墓碑(大阪府枚方市本覚寺)のこと
・『頭陀袋』『その菊』に見る宗輔と越前少掾や三好松洛との関係
・宗輔作品の外題の読みについて
(2)義太夫節の伝承の問題
・「嬢景清八嶋日記」花菱屋の段をめぐって(続)
・日向島の段の伝承について
第25 回 2010 年3 月23 日(火)
(1)古典芸能の復元的研究をめぐって
・原作版「曽根崎心中」が上演された背景について
・原作版「曽根崎心中」(1990 年)の上演台本、作曲、演出について
・「曽根崎心中」の原作と現行台本について
2. 2 グローバルCOE 公開講座「浄瑠璃」
「和田合戦女舞鶴」は元文元年(1736)大坂・豊竹座で初演された全五段の時代物である。三段目切「市若初陣の段」は、戦前までは人口に膾炙した曲であったが、1945 年以後は稀曲となっている。日本演劇研究コース人形浄瑠璃文楽の研究会は、初代豊竹若太夫(越前少掾)初演、東風の代表曲「和田合戦女舞鶴 市若初陣の段」の現代的甦りを期して、十世若大夫の孫である豊竹英大夫師に取り組みをお願いし、三味線は鶴澤清友師に御引き受けいただいた。
日時:2009 年10 月1 日(木)14:00 ~ 16:00(開場13:30)
場所:早稲田キャンパス大隈小講堂(大隈記念講堂地下)
(1)解説「和田合戦女舞鶴」について
講師:内山美樹子(GCOE 事業推進担当者・早稲田大学教授)
(2)稀曲奏演 義太夫「和田合戦女舞鶴」市若初陣の段
浄瑠璃:豊竹英大夫
三味線:鶴澤清友
2. 3 研究報告会 文楽フィルム「日本の人形劇」(MARIONNETTES JAPONAISES)
早稲田大学演劇博物館グローバルCOE は、2009 年度にフランスのアルベール・カーン博物館より人形浄瑠璃文楽の映画フィルム3 巻を購入した。このフィルムは、1921(大正10)年7 月に撮影され、翌8 月に東京・明治座で7 日間だけ公開された松竹キネマ製作の短編映画「文楽座人形浄瑠璃」をもとに、後年、そこに数カットを付け加えたヴァージョンが、フランスに輸出されたものと考えられる。映像には、二世豊竹古靱太夫(豊竹山城少掾)、三世鶴沢清六、初世吉田栄三、三世吉田文五郎(吉田難波掾)ら、大正後期に活躍した錚錚たるメンバーの顔が見え、現存する文楽に関する映像の中でも最も古いものと思われる。この映像は、文楽研究のみならず初期の日本映画研究の第一級資料であり、今後、演劇と映像の両面からさらに研究が進められるべきものである。2009 年12 月2 日(水)には、竹本幹夫館長ならびに文楽フィルムプロジェクト(内山美樹子、桜井弘、小松弘、武田潔)による記者会見も行われた。日本演劇研究コースおよび映像研究コースの共催で行われた本研究会では、映像を見ながら現段階での研究成果を報告した。
日時:2009 年12 月22 日(火)13:00 ~ 16:30
場所:早稲田大学小野記念講堂(小野梓記念館地下2 階)
(1)挨拶:竹本幹夫(GCOE 拠点リーダー・演劇博物館館長・早稲田大学教授)
(2) 講演:「文楽フィルムとアルベール・カーン博物館」
武田潔(GCOE 事業推進担当者・早稲田大学教授)
(3) 講演:「文楽フィルムの映画史的意義」
小松弘(GCOE 事業推進担当者・早稲田大学教授)
(4) 上映と解説:桜井弘(GCOE 研究協力者(GCOE 客員講師))
(5) 鼎談:「文楽フィルムから見えるもの」
内山美樹子・菊池明(財団法人逍遙協会理事)・桜井弘
2. 4 研究生への研究指導(内山美樹子)
日時:火曜6 限
3 近世演劇および民俗芸能(和田修)
2009 年度は郡司正勝の研究方法といわれる芸態論にあらためて取り組み、荒事に関する研究史を整理しつつ、21 世紀の芸態論的荒事研究の可能性について討議する「荒事―歌舞伎の様式と発想を考える会」を年3 回実施した。うち1 回は具体的な事例として、土佐の神楽についての現地調査を行った。具体的な活動は以下の通りである。
3. 1 「荒事―歌舞伎の様式と発想を考える会」
日時:(1)2009 年7 月18 日(土)14:30 ~ 17:00
(2)2009 年7 月19 日(日)13:00 ~ 17:00
場所:戸山キャンパス 33-2 号館 演劇映像第2 専修室
講師:和田修(GCOE 事業推進担当者・早稲田大学准教授)・佐藤恵里(GCOE研究協力者・高知女子大学教授)・武井協三(GCOE 研究協力者・国文学研究資料館教授)
3. 2 「荒事―歌舞伎の様式と発想を考える会」高知出張
土佐の神楽についての現地調査を兼ねた「荒事―歌舞伎の様式と発想を考える会」を、研究協力者の佐藤恵里が所属する高知女子大学で開催するため、高知に出張した。
日程:2009 年11 月22 日(日)~ 2009 年11 月24 日(火)
場所:高知県吾川郡仁淀川町池川神社、他に高知女子大学
4 その他
4. 1 研究生への研究指導(近世演劇:古井戸秀夫)
日時:金曜5 限
場所:東京大学
4. 2 留学生のための古典ゼミ
日程:第20 回 2009 年4 月16 日(木)
第21 回 2009 年5 月7 日(木)
第22 回 2009 年5 月21 日(木)
第23 回 2009 年6 月16 日(木)
第24 回 2009 年7 月16 日(木)
第25 回 2009 年9 月10 日(木)
第26 回 2009 年11 月12 日(木)
第27 回 2009 年11 月19 日(木)
第28 回 2009 年12 月9 日(木)
第29 回 2010 年1 月20 日(水)
第30 回 2010 年2 月8 日(月)
会場:国際会議場共同研究室2、ほか
講師:平林一成(GCOE 客員講師)
内容:日本演劇を専攻する博士課程の留学生を主たる対象とした、日本古典文学読解のゼミ。
4. 3 木造劇場研究会
劇場演出空間技術協会(JATET)の部会「木造劇場研究会」は、日本の芸能に相応しい空間とは何かを、学問と現場をはじめ様々な立場から考察している団体である。GCOE 拠点と「木造研究会」との共催で、演劇と劇場を学ぶGCOE 研究生、研究者を対象に以下の研究会を開催した。
研究会「小屋の場、小屋の記憶」
日時:2009 年6 月25 日(木)18:30 ~ 21:00
場所:早稲田キャンパス6 号館3 階318 室(レクチャールーム)
(1)「江戸の大衆芸能~場の違いと記憶の継承~」
講師:川添裕(皇學館大學教授)
(2)「四条道場という場」講師:神田由築(お茶の水女子大学教授)