2008年度活動報告
Ⅰ.概要
西洋演劇研究コースでは、多角的な視点から西洋演劇を考察し、研究員の博士論文執筆を支援するとともに、国内はもとより海外での学会発表や国際的な学術誌への論文投稿を促進し、日本の西洋演劇研究に寄与し、国際的に活躍し得る演劇研究者の育成を図っている。これらの目的達成のため、事業推進担当者が推進する各研究プロジェクトでは多彩なテーマに沿った研究活動および研究員の指導を行っている。2008 年度は、本年度のグローバルCOE(以下GCOE)最大のイベントである、「国際研究集会・60 年代演劇再考」の開催において中心的な役割を果たした。さらにコース全体の活動として、博士論文経過報告会、英語ゼミ、国内外より著名な西洋演劇研究者を招いての演劇論講座やセミナーを開催するほか、世界的に著名な研究者を海外より、客員教授として招聘し、GCOE 研究員に指導を受ける機会を提供するなど、総合的な教育・研究活動を展開している。西洋コースでは9 つの個別プロジェクトを設置し、GCOE 研究員は、各プロジェクトに参加し、担当教員の指導を受けながら、博士論文の執筆を進めている。該当するプロジェクトのないGCOE 研究員には、コース全体企画に参加してもらうほか、事業推進担当者である教員が個別に指導するという形をとっている。
■担当者
〈事業推進担当者〉〈五十音順〉
秋葉裕一 早稲田大学理工学術院教授
岡室美奈子 早稲田大学文学学術院教授
小田島恒志 早稲田大学文学学術院教授
坂内太 早稲田大学文学学術院専任講師
澤田敬司 早稲田大学法学学術院教授
藤井慎太郎 早稲田大学文学学術院准教授
冬木ひろみ 早稲田大学文学学術院准教授
丸本隆 早稲田大学法学学術院教授
三神弘子 早稲田大学国際教養学術院教授
水谷八也 早稲田大学文学学術院教授
本山哲人 早稲田大学法学学術院准教授
八木斉子 早稲田大学政治経済学術院教授
〈客員教員〉
ベアトリス・ピコン=ヴァラン早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 上級研究員(2009 年度)、フランス国立科学研究所主任研究員
ヨアヒム・ルケージー早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員教授(2008 年度まで) 、カールスルーエ大学研究員
川島健 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師 (2008 年9 月まで)、広島大学准教授(2009 年10 月より)
高橋信良 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師 (2009 年6 月まで)、千葉大学准教授
長島確 早稲田大学演劇博物館客員次席研究員(2009 年度より)
野池恵子 早稲田大学演劇博物館客員次席研究員(2009 年度より)
間瀬幸江 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師(2008 年度まで)
ガヴィン・ダフィ早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師
〈専任研究協力者〉
アントニー・ニューエル 早稲田大学政治経済学術院教授
オデイール・デュスッド 早稲田大学文学学術院教授
〈研究助手〉
鈴木辰一 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 研究助手
(2009 年9 月まで)
村瀬民子 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 研究助手
菊地浩平 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 研究助手 (2009 年11 月より)
コース全体としての活動
■博士論文経過報告会
日時・場所:2008 年6 月7 日(土)13:00 ~ 16:00 早稲田キャンパス6 号館318 教室
発表者:佐藤英(GCOE 研究員RA・2008 年度)、鈴木辰一(GCOE 研究助手)
■ GCOE 英語ゼミ
講師:Gavin Duffy(早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師)
日時・場所:毎週木曜日 18:00 ~ 19:30 演劇映像専修室2(33-2 号館2 階215)
客員講師としてGavin Duffy 氏(聖心女子学院専任講師)を招いて毎週木曜日に開催し、研究活動のために必須の英語をスキルアップし、国際的な舞台での活躍を促進することを目的としている。この講座では、受講者の英語によるプレゼンテーションのノウハウを身につけさせるのみならず、英語でのコミュニケーションの際に陥りやすい誤解を、英語圏と日本の文化背景の差を踏まえて把握させることにより、より円滑なコミュニケーションを行なう方法を習得させている。目的のはっきりした整理された講義と、ユーモアを交えた会話によって、英語の苦手な受講生にも参加しやすいゼミとなっている。
2008 年度は、本ゼミに参加するGCOE 研究員のうち数名が、海外で開催され た国際学会で研究発表を行った。今後も国際学会などで英語による研究発表を行うGCOE 研究員が増えていくことが期待される。国際舞台で通用する研究者の育成という観点から、本ゼミは大きな意義を持つものである。
■演劇論講座
第1 回「タデウシュ・カントール その人生の諸相」
講師:ウタ・ショルレンマー氏 Dr. Uta Shorlemmer
日時・場所:2008 年7 月25 日(金)15:00 ~ 17:00 大隈記念タワー(26 号館)302 会議室
ポーランド演劇界の鬼才といわれるカントールの人と業績について、カントール研究者のショルレンマー氏に、その全体像を解説していただいた。ドイツ語での講演には、萩原健氏(GCOE 研究協力者・明治大学講師)による逐次通訳が付き、また貴重な舞台映像も上映された。
第2 回「『演出演劇』としてのオペラ~学術的な考察の可能性~」
講師:長木誠司氏(東京大学大学院総合文化研究科准教授)
日時・場所:2008 年10 月24 日(金)18:30 ~ 21:00 早稲田大学6 号館318教室(レクチャールーム)
演出家が既存のテクストを今日的視点で自由に解釈し、新たな作品として提示する、演出家主導の舞台づくり=「演出演劇(レジーテアーター)」は、近年の演劇学のキーワードとなっている。ストレートプレイに続いて、最近オペラの分野でも、これまで支配的であった原作の「忠実な」再現という手法に代わるものとして注目される「演出演劇」について、音楽学研究者の立場よりお話いただいた。
第3 回「南米コロンビアの社会と演劇」
講師:サンティアゴ・ガルシア氏 Santiago García
(演出家、俳優、劇作家、演劇理論家)
パトリシア・アリサ氏 Patricia Ariza (演出家、俳優、劇作家、女性演劇活動家)
日時・場所:2008 年11 月5 日(水)18:00 ~ 21:00 早稲田キャンパス26 号館(大隈記念タワー)地下1 階多目的講義室
ガルシア氏には、「集団創作」を選択した劇団テアトロ・ラ・カンデラリアの 観点から、アリサ氏には女性演劇の視点からコロンビア演劇について語っていただいた。コロンビア演劇は、日本ではあまり研究が進んでいない分野であるので、本講演は、参加者にとっても新たな刺激となるものであった。
第4 回「観客参加型演劇―インプロの魅力」
講師:絹川友梨氏(俳優、インプロバイザー、演出家)
パフォーマー:インプロ・ワークス・プレーヤーズ
日時・場所:2008 年11 月25 日(火)18:15 ~ 20:30 早稲田大学 国際会議
場第2 会議室
インプロ(劇)とは、新しいタイプの観客参加型の即興劇であり、近年急速に 関心が高まっている。本講演では、インプロ成立の歴史的な背景と、現在の多彩な展開、そしてコミュニケーション能力の涵養のためにもインプロが活用されている点についてお話いただいた。また、パフォーマーの方々による実演に来場者も参加し、インプロという演劇の新たな形態を、理論と実践の両面から学ぶことができた。
第5 回「スタニスラフスキー・システムとロシア演劇」
講師:岩田貴氏(早稲田大学客員教授)
日時・場所:2009 年1 月22 日(木)16:30 ~ 18:00 早稲田大学6 号館318教室(レクチャールーム)
本講演では、まずスタニスラフスキーの生涯と当時のロシア演劇界とを、貴重な写真によって概観した。また、スタニスラフスキー・システムを論じた著作の構成や内容をお話いただいた。また「システム」が各国で受容され、大きな影響を与えると同時に、誤解もまた生じたことが指摘され、今後の研究の可能性を示すものとなった。
第6 回「ツアー・パフォーマンス『東京/オリンピック』:
60 年代高度成長期を掘り起こす」
講師:ピーター・エッカサール氏 Dr. Peter Eckersall(メルボルン大学)
2009 年1 月27 日(火)14:40 ~ 16:10 早稲田キャンパス6 号館318 教室(レクチャールーム)
本講演は、ポルトB による『東京/オリンピック』(2007)を、1964 年の空間を記憶し、批評するパフォーマティヴな言説として読み解くものであった。質疑の後、高山明氏(ポルトB 主宰)からツアー・パフォーマンスの意図するところについて等の、貴重なコメントをいただいた。
各プロジェクトの活動(担当者五十音順)
【比較演劇研究】(秋葉裕一)
本プロジェクトは、ベルトルト・ブレヒトの受容や影響を、さまざまな文化圏、異なった国々、いろいろな時代や社会のうちに眺めることを目的としている。2008 年度は、ブレヒト研究の第一人者であるヨアヒム・ルケージ(Joachim Lucchesi)氏を客員教授として招聘し、ブレヒト連続セミナーを開催するなどの活動を行った。
■ブレヒト連続セミナー
講師:ヨアヒム・ルケージ氏 Dr. Joachim Lucchesi(GCOE 客員教授/ カール スルーエ大学研究員)
第1 回 4 月30 日(水)16:30 ~ 18:30 国際会議場4 階共同研究室4
第2 回 5 月7 日(水)16:30 ~ 18:30 14 号館801 会議室
第3 回 5 月14 日(水)16:30 ~ 18:30 国際会議場4 階共同研究室6
第4 回 5 月21 日(水)16:30 ~ 18:30 26 号館地下多目的講義室
第5 回 5 月28 日(水)16:30 ~ 18:30 26 号館地下多目的講義室
ドイツより招聘したヨアヒム・ルケージ教授による「ブレヒト連続セミナー」 を全5 回に亘って開催した。連続セミナーの前半では、劇作家であり文学者であるベルトルト・ブレヒトの研究において第一人者のルケージ教授に、専門的な見地から『家庭用説教集』の詩作品(第1 回)、『三文オペラ』の歌曲(第2 回)、初期散文作品(第3 回)を対象にご講演いただき、従来からの研究の蓄積を伺った。とりわけ戯曲テクストとブレヒト自身の演出指示との関係について熱心な議論があった。またルケージ教授は、音楽学の博士号を取得していることから、音楽学的な観点からも演劇を語っていただいた。連続セミナーの後半では、日本初公開となるDVD 資料により、演劇人ブレヒトを理解する試みを行った。亡命生活の苦難や、戦後に帰国がかなって、ベルリナー・アンサンブル劇場を建設し、上演史に名高い作品の数々を制作した貴重な記録映像、そしてまた血縁者や友人による興味深いエピソードを伺った。ここではルケージ教授の解説に、逐次通訳を付けることにより、より広範囲の参加者を対象にした。
【ベケット・ゼミ】(岡室美奈子)
21 世紀COE からの継続的な活動を通じ、ベケット・ゼミは、国際的なベケット研究誌Samuel Beckett Today/ Aujourd’hui 19(東京シンポジウム特集号)の刊行、3 名のGCOE 研究員によるIASIL 年次大会での研究発表、鴎座との協力による、ベケット劇の上演台本の翻訳ワークショップの開催など、着実な成果をあげてきた。今後もこれらの成果を踏まえて演劇研究センターを、日本国内のみならず、国際的ベケット研究拠点として更に発展させ、2011 年度の論文集出版を目指したい。
■ Samuel Beckett Today/ Aujourd’hui 第19 号刊行
2006 年度に21 世紀COE 主催で開催した生誕百年記念国際サミュエル・ベケッ トシンポジウム「ボーダレス・ベケット」の成果が、オランダのロドピ社より、国際的なベケット研究誌Samuel Beckett Today/ Aujourd’hui 19(東京シンポジウム特集号)として刊行され、岡室が編集長を務めたほか、ベケット・ゼミ参加者の論文も数本掲載された。
Borderless Beckett/ Beckett sans frontiers Tokyo 2006: Samuel Beckett Today/ Aujourd’hui 19. Eds. Minako Okamuro, Naoya Mori, Br uno Clément, Sjef Houppermans, Angela Moorjani and Anthony Uhlmann (Amsterdam: Rodopi, 2008).
■ GCOE 研究員によるIASIL(The International Association for the Studies of
Irish Literatures)年次大会での研究発表
ベケットゼミのメンバーである片岡昇、景淑英、菊池慶子の3 人は、2008 年7月28 日から8 月1 日にかけてポルト大学(ポルトガル)で開催されたIASIL 第32 回大会にて研究発表を行った。各人の発表タイトルは以下の通りである。
片岡昇 “An Analysis of Irregularity in Beckett’s Quad”
景淑英 “ The Performing Hands of the Writer:“ Separation” in Beckett’s Ohio Impromptu”
菊池慶子 “ The Sense of Being Human as a Border: Samuel Beckett’s Film”
また、この学会ではGCOE 事業推進担当者である三神弘子も研究発表を行った。タイトルは以下の通りである。
三神弘子 “ Tom Murphy’s Famine (1968) in the Context of Irish (Theatrical) History.”
■『ロッカバイ』上演台本作成ワークショップ
岡室とベケット・ゼミのメンバーが、演出家、俳優とワークショップ形式でベケットの後期戯曲『ロッカバイ』の翻訳と上演台本作成を行なった。『ロッカバイ』は10 月25 日、26 日に神楽坂のセッションハウスで上演された。また、上演後、外部の翻訳者や劇作家と討議を行なった。
【西洋演劇身体表象研究】(坂内太)
西洋演劇、及び戯曲調のテクストにおける身体表象の研究を推進した。また、身体表象研究会を開催した。研究会では、GCOE 研究員によって西洋の人形劇を巡る研究発表がなされたほか、参加者全員によって、人間の身体と人形・機械とが対置される様々な戯曲についての検討が行われた。
【ポストコロニアル演劇研究】(澤田敬司):ポストコロニアル状況の中から生まれた演劇作品について研究を推進した。2009 年3 月にはオーストラリア、ニュージーランドへ澤田が出張し、メルボルン大学にて2010 年度開催予定のシンポジウムに関する打ち合わせを行い、併せてポストコロニアル演劇に関する資料の収集を行った。オークランドではオークランド国際芸術祭に参加し、ニュージーランド先住民演劇の上演に関するフィールドワークを行った。
【フランス語圏舞台芸術研究】(藤井慎太郎)
2008 年度は、事業推進担当者である藤井慎太郎が在外研究期間であったが、学習院大学教授の佐伯隆幸氏、並びに高橋信良客員講師の協力により、翻訳プロジェクトが継続され、『演劇学の教科書』(クリスティアン・ビエ、クリストフ・トリオー著、国書刊行会、2009 年3 月)を出版することができた。翻訳担当者名(五十音順)を以下に記す。
穴澤万里子(日本大学准教授)、石井恵(座・高円寺企画・制作チーフ)、小田中章浩(大阪市立大学准教授)、片山幹生(早稲田大学非常勤講師)、坂巻康司(東北大学准教授)、佐藤康(学習院大学非常勤講師)、高瀬智子(明治大学専任講師)、高橋信良(GCOE 客員講師/ 千葉大学准教授)、千川哲生(GCOE 研究員)、長嶋由紀子(GCOE 研究助手)、根岸徹朗(専修大学准教授)、藤井慎太郎(GCOE事業推進担当者)、間瀬幸江(GCOE 客員講師)、八木雅子(早稲田大学非常勤講師)、芳野まい(学習院大学非常勤講師)。
【シェイクスピア・ゼミ】(冬木ひろみ・本山哲人)
シェイクスピア・ゼミでは、シェイクスピア、および同時代の劇作家について、最先端の現代批評と緻密なテクスト解釈の両面からアプローチをし、シェイクスピア研究の水準を高める場としている。本ゼミが掲げる目標は、テクスト論と上演論をつなぐ最も有効な方法論を模索しつつ、立体的な演劇の場の中でテクスト分析を行ってゆくことである。2008 年度は、冬木が在外研究機関であったため、本山がプロジェクトを統括し、国内外で顕著な活動をしている研究者を招聘したセミナー、研究員たちによる自身の研究の発表などを随時行った。
■シェイクスピア・ゼミ連続講演会
第1 回「“Fair is foul, and Foul is fair.”さて日本語では?」
講師:江戸馨氏(東京シェイクスピア・カンパニー主宰)
2008 年5 月17 日(土)15:30 ~ 17:00 早稲田キャンパス26 号館(大隈記念タワー)3 階302 会議室
江戸氏は、1990 年から現在までシェイクスピア作品の翻訳、上演に携わって いる。本講演では、その経験を基に、実践の立場から見たシェイクスピア劇上演の問題点を考察した。日本語に翻訳し、上演する際、シェイクスピア劇が前提にしているキリスト教・西洋古典の世界観を日本の観客に伝えるのに生じる問題点、それを解決するために行っている工夫を、東京シェイクスピア・カンパニーの役者による台本の朗読も交えながらお話しいただいた。
第2 回「Sir Topaz 逸話(Twelfth Night, Act 4 Scene 2)をとらえなおす― Jestbookの流布から見るFeste の起源」
講師:小町谷尚子氏(慶應義塾大学准教授)
日時・場所:2008 年6 月14 日(土)15:30 ~ 17:00 早稲田キャンパス6 号館3 階318 教室(レクチャールーム)
小町谷氏の講演は、現代人が作品を理解する際の問題を扱ったものであった。 シェイクスピアが作品を執筆した当時周囲にあった、笑話集などのテクストを通して作品を読むことにより、シェイクスピアの道化がきわめて英国的な伝統の中に位置づけられることを示し、現代の上演で『十二夜』の道化であるフェステとマルヴォーリオの場面が矮小化されることにより、フェステ本来の役割が見えなくなってしまっていることを明らかにした。この講演はテクストの文化的背景と上演をいかに結びつけるかを考察するものであった。
第3 回“Shakespearian Anthropology: Magic, Misrule and Merry England”
講師:フランソワ・ラロック氏 François Laroque(パリ第3 大学教授)
日時・場所:2008 年9 月20 日(土)15:30 ~ 17:00 早稲田キャンパス26 号
館(大隈記念タワー)3 階302 会議室
フランソワ・ラロック氏の著書Shakespeare’s Festive World は今年、『シェイク スピアの祝祭の時空』として邦訳が出版された。その著書への評釈として位置づけられたこの講演では、民間祝祭の伝統と近世の暦に焦点を当てながらシェイクスピアの戯曲が考察された。
第4 回“Signs, Signature, Selfhood in Early Modern Europe.”
講師:フランソワ・ラロック氏 François Laroque(パリ第3 大学教授)
日時・場所:2008 年9 月25 日(木)15:30 ~ 17:00 早稲田キャンパス26 号
館(大隈記念タワー)3 階302 会議室
ラロック氏の2 回目の講演は、16 世紀の西洋絵画に描かれている署名が自我の確立を表現していたことを、ホルバインなどの作品の検証から示した。そして、『ハムレット』、『 十二夜』、『アントニーとクレオパトラ』、そしてソネットなどでも言及される、名前を記すという行為がどのような意味を持つのか、示唆された。
第5 回「妻の死肉を食らった男の物語」
講師:中野春夫氏(学習院大学教授)
日時・場所:2008 年11 月2 日(日)15:30 ~ 17:00 早稲田キャンパス26 号
館(大隈記念タワー)3 階302 会議室
本講演は、これまで『テンペスト』研究で言及されてこなかった新大陸関連の 史料、「ヴァージニアの悲劇、妻の死肉を食らった男の物語」が作品の材源の一つである可能性を考察したものであった。この材源の存在が、『テンペスト』に新たな作品像を与えるものであることが明らかにされた。
第6 回「『オセロー』の演劇的エネルギー」
講師:篠崎実氏(千葉大学准教授)
日時・場所:2008 年12 月13 日(土)15:30 ~ 17:00 早稲田キャンパス26
号館(大隈記念タワー)3 階302 会議室
本講演は、劇の構造分析を通して、なぜそのような反応が生まれるのか、を論じたものであった。劇中における、時間の問題、怪物誕生の比喩、ハンカチ、などの問題分析を行い、これらが激しい反応を引き起こす要素となりえたことを示すものであった。
第7 回「シェイクスピア時代の古版本と書誌学研究」
講師:英知明氏(慶應大学教授)
日時・場所:2009 年1 月31 日(土)15:30 ~ 17:00 早稲田キャンパス26 号
館(大隈記念タワー)地下1 階多目的講義室
本講演は、シェイクスピア作品のように、印刷前の原稿が残っておらず、複数の本文が現存する作品の本文復元をどのように行っていくのか、という書誌学研究を扱ったものであった。詳細な実例を交えた興味深い講演は、書誌学研究の重要性を改めて示すものであった。
【オペラ/音楽劇の総合的研究】(丸本隆)
このプロジェクトでは、オペラという総合芸術の研究を、演劇学と音楽学の両方の観点から行い、月1 回のペースで、事業推進担当者や研究員の発表と質疑応答による研究会を継続している。2008年度には、『オペラ学の地平』(彩流社、2009 年3 月)(丸本隆、伊藤直子、長谷川逸朗、福中冬子、森佳子編)を出版した。また、理論面と実践との両面からオペラ研究を行う試みとして、以下のレクチャーコンサートを行った。「聖徳大学が挑む2 種類の《魔笛》公演 ―「場」と「言語」の観点からオペラ上演を考える―」
講師:山本まり子氏(聖徳大学准教授)
十川稔氏(オペラ演出家・聖徳大学講師)
藪西正道氏(歌手・聖徳大学准教授)
島崎智子氏(歌手・聖徳大学准教授)
鳥居俊之氏(作曲家・聖徳大学准教授)他、制作スタッフの方々
日時・場所:2008 年7 月29 日(火)16:00 ~ 19:00 早稲田キャンパス26 号
館(大隈記念タワー)地下1 階多目的講義室
このレクチャーコンサートは、聖徳大学音楽学部の2 種類の《魔笛》公演に際 し、その制作過程から浮かび上がる諸問題を、制作に携わる方々にお話いただいたものである。サントリーホールでの公演は、ホールオペラ形式/ドイツ語上演+日本語字幕、また、聖徳大学講堂での公演は、通常のオペラ形式/日本語の台詞+ドイツ語による歌唱である。この二公演の制作の実際について、オペラを上演する際の「場」と「言語」の両方に着目し、DVD 上映や実演も交えて豊富な経験を語っていただいた。
なお、研究会の詳細は以下のとおり。
第1 回 4 月15 日(火)18:30 ~ 20:30 西早稲田キャンパス8 号館303 ~305 会議室
報告者:Dr. Joachim Lucchesi ヨアヒム・ルケージ(GCOE 客員教授)
“The hurricanes hang above the mountains” Some aspects of Brecht’s work for the
musical theatre (「ハリケーンは山の上にやって来る」ブレヒトの音楽劇作品の諸様相)
司会:丸本 隆(早稲田大学)、山梨牧子(GCOE 研究員)
第2 回 5 月20 日(火)18:15 ~ 20:30 西早稲田キャンパス8 号館307 教室
報告者: 大山浩太(筑波大学、GCOE 研究員)
「ヴァーグナー《ニュルンベルクのマイスタージンガー》における排他的構造の研究」
司会:佐藤 英(早稲田大学、GCOE 研究員)
第3 回 6 月3 日(火)18:15 ~ 20:45 早稲田キャンパス8 号館307 教室
報告者:丸本 隆(早稲田大学、GCOE 推進担当者)
「ドイツ/ヨーロッパ(特にベルリン)におけるオペラ研究とオペラ文化の新しい動き」
司会:野口方子(GCOE 研究員)
第4 回 聖徳大学が挑む2 種類の《魔笛》公演 (上述)
第5 回 1 月20 日(火)18:30 - 20:30 早稲田キャンパス8 号館417 教室
報告者:野口方子(GCOE 研究員)
「『ナクソス島のアリアドネ』における聖と俗」
司会:森 佳子(日本大学、GCOE 研究員)
第6 回 2009 年2 月3 日(火)16:00 ~ 18:00 早稲田キャンパス8 号館404教室
報告者:大崎さやの(国立音楽大学、GCOE 研究員)
「リブレット作家としてのゴルドーニ―オペラ・ブッファ《月の世界》を中心に―」
司会:中村 仁(東京大学、GCOE 研究員)
第7 回 2009 年2 月24 日(火)16:00 ~ 18:00 早稲田キャンパス8 号館104教室
報告者:中野正昭(早稲田大学演劇博物館客員研究員、GCOE 研究員)
「ローシー・オペラと浅草オペラ、その〈連続〉と〈断絶〉―小松耕輔訳『椿姫』を中心に」
司会:伊藤直子(国立音楽大学、GCOE 研究協力者)
【17 世紀フランス演劇研究会】(オディール・デュスッド)
2008 年度は、17 世紀の女性音楽家であるジャケ・ド・ラ・ゲールを取り上げた講演会と、その作品を演奏するコンサートを実施した。
「女性音楽家ジャケ・ド・ラ・ゲール―その音楽と生涯が示すもの」
講師:小林緑氏 国立音楽大学名誉教授
日時・場所:2008 年7 月26 日(土)15:00 ~ 18:00 早稲田大学戸山キャン
パス34 号館第3 会議室
フランス宮廷文化における女性音楽家ジャケ=ド・ラ・ゲールの傑出した業績 やその後の受容史をお話いただき、現行の音楽史を理解する際の偏りとは、どのようなものであるかを考察した。
「創造の悦び― 17 世紀フランス・サロン器楽・歌・舞踏―女性作曲家エリザベト・クロード・ジャケ・ド・ラ・ゲールとともに」
演奏:小林木綿氏 小林瑞葉氏 廣海史帆氏 武澤秀平氏 ローラン・テシュネ氏 市瀬陽子氏(バロックダンス)
日時・場所:2008 年9 月26 日(金)14:00 ~ 21:00 早稲田大学小野記念講堂
バロックヴァイオリンやチェンバロなどの美しい古楽器によって演奏される、ド・ラ・ゲールの音楽を聴き、楽器やバロックダンスのワークショップをも併せて実施することにより、女性音楽家としての彼女の活動の世界に触れることができた。