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2009年度活動報告

 


.概要
西洋演劇研究コースでは、多角的な視点から西洋演劇を考察し、研究生の博士論文執筆を支援するとともに、国内はもとより海外での学会発表や国際的な学術誌への論文投稿を促進し、日本の西洋演劇研究に寄与し、国際的に活躍し得る演劇研究者の育成を図っている。これらの目的達成のため、事業推進担当者が推進する各研究プロジェクトでは多彩なテーマに沿った研究活動および研究生の指導を行っている。さらにコース全体の活動として、博士論文経過報告会、英語ゼミ、国内外より著名な西洋演劇研究者を招いての演劇論講座やセミナーを開催するほか、世界的に著名な研究者を海外より招へいしグローバルCOE(以下GCOE)研究生に直接指導を受ける機会を提供するなど、総合的な教育・研究活動を展開
している。
  西洋コースでは9 つの個別プロジェクトを設置し、GCOE 研究生は、各プロジェクトに参加し、担当教員の指導を受けながら、博士論文の執筆を進めている。該当するプロジェクトがないGCOE 研究生には、コース全体企画に参加してもらうほか、事業推進担当者である教員が個別に指導するという形をとっている。

■担当者
<事業推進担当者>〈五十音順〉
秋葉裕一  早稲田大学理工学術院教授
岡室美奈子 早稲田大学文学学術院教授
小田島恒志 早稲田大学文学学術院教授
貝澤哉   早稲田大学文学学術院教授
坂内太   早稲田大学文学学術院准教授
澤田敬司  早稲田大学法学学術院教授
藤井慎太郎 早稲田大学文学学術院教授
冬木ひろみ 早稲田大学文学学術院准教授
丸本隆   早稲田大学法学学術院教授
三神弘子  早稲田大学国際学術院教授
水谷八也  早稲田大学文学学術院教授
本山哲人  早稲田大学法学学術院准教授
八木斉子  早稲田大学政治経済学術院教授
<客員教員>
高橋信良   早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師(2009 年6月まで)、千葉大学准教授
長島確   早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員次席研究員 (2009 年度まで)
野池恵子  早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員次席研究員
ガヴィン・ダフィ  早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師、聖心女子学院専任講師
<専任研究協力者>
オディール・デュスッド 早稲田大学文学学術院教授
<研究助手>
村瀬民子  早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 研究助手 (2009 年度まで)
鈴木辰一  早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 研究助手 (2009 年9 月まで)
菊地浩平  早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 研究助手(2009 年11 月より)
奥香織   早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 研究助手 (2010 年度より)

Ⅱ.コース全体としての活動
■博士論文経過報告会
日時:2009 年6 月20 日(土)
場所:早稲田キャンパス6 号館318 教室
発表者:片岡昇(GCOE 研究生)、本多まりえ(GCOE 研究生)
■ GCOE 英語ゼミ
講師:Gavin Duffy(早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師)
日時:毎週木曜日 18:15 ~ 19:45
場所:戸山キャンパス(33-2 号館215 教室)
  講師としてGavin Duffy 氏(聖心女子学院専任講師)を招いて毎週木曜日に開催し、研究活動のために必須の英語をスキルアップし、国際的な舞台での活躍を促進することを目的としている。この講座では、受講者の英語によるプレゼンテーションのノウハウを身につけさせるのみならず、英語でのコミュニケーションの際に陥りやすい誤解を、英語圏と日本の文化背景の差を踏まえて把握させることにより、より円滑なコミュニケーションを行なう方法を習得させている。目的のはっきりした整理された講義と、ユーモアを交えた会話によって、英語の苦手な受講生にも参加しやすいゼミとなっている。
■演劇論講座
第1 回
講師:ハンス=ペーター・バイアーデルファー 
    Hans-Peter Bayerdörfer(ミュンヘン大学教授)
日時:2009 年5 月27 日(水)17:00 ~ 19:00
場所:早稲田キャンパス26 号館地下多目的講義室
題目:「現代ドイツ演劇におけるファウスト演出」
  ゲーテの『ファウスト』は、ドイツ語圏では新しい演出によって繰り返し上演されている。第一回目の演劇論講座では、ミュンヘン大学の演劇学科において、長年、演劇学を教えてこられたバイアーデルファー先生に、主にペーター・シュタインとミヒャエル・タールハイマーによる演出についてお話いただいた。イタリアの演出家ジョルジョ・ストレーレル演出への言及もあり、ヨーロッパにおける演劇学の観点を学ぶ機会となった。
第2 回
講師:ベアトリス・ピコン= ヴァラン Béatrice Picon-Vallin
    (フランス国立科学研究所・演劇博物館上級研究員)
日時:2009 年6 月10 日(水)15:00 ~ 19:00
場所:早稲田キャンパス26 号館302 会議室
題目:「伝統と革新―演劇人メイエルホリドの軌跡」
  早稲田大学演劇博物館GCOE の招聘で演劇博物館上級研究員として来日されたベアトリス・ピコン= ヴァラン先生に、ロシアの演出家フセヴォロド・メイエルホリド(1874−1940)についてお話いただいた。コメディア・デラルテや歌舞伎といった伝統演劇に多くを学びつつ、それを同時代の視点から捉えなおすことで常に演劇を革新しつづける演出家メイエルホリドの戦略が解き明かされた。講義の最後には『検察官』の断片のビデオ資料、および多数の貴重な写真・画像が紹介され、この演出家の演劇実験の数々が視覚的にも示され、その斬新さと魅力が確認された。
第3 回
講師:ベアーテ・ヴォンデ Beate Wonde
    (ベルリン・フンボルト大学日本学科付属森鴎外記念館副館長)
日時:2009 年11 月10 日(火)16:30 ~ 18:30
場所:早稲田キャンパス26 号館地下多目的講義室
題目:「 演劇・政治・ユーモア…―ドイツのパフォーマンス集団〈リミニ・プロトコル〉の最新の動向―」
  「日常のエキスパート」として素人を活用し、演劇の常識を次々と打ち破るドイツの人気パフォーマンス集団〈リミニ・プロトコル〉。その作品ではしばしば、リアルタイムで展開する政治と結びついたテーマがユーモラスに取り扱われる。来日公演では、昨年の『ムネモパーク』、今年の『カール・マルクス:資本論、第一巻』が大反響を呼び、『Cargo Tokyo-Yokohama』も非常に注目を浴びた。本講演では、リミニ・プロトコルの作品をつぶさに追ってこられたヴォンデ氏に、豊富な映像資料をまじえ歴史的な背景も視野に入れた最新の作品群の分析を通じ、日本とドイツの観衆それぞれの反応の違いにも触れながら、現地の観察者ならではの目線で詳しくお話していただいた。
第4 回
講師:川崎 賢子(文芸・演劇評論家)
日時:2010 年1 月19 日(火)18:30 ~ 20:30
場所:早稲田キャンパス26 号館地下多目的講義室
題目:「宝塚スタイルの内部と外部 宝塚歌劇団95 周年の過去・現在・未来」
  95 年の歴史を誇る宝塚歌劇の過去を振り返り、未来を展望しながら、女性の身体表現としての「男役」「娘役」の様式の蓄積についての考察、「西洋文化受容」「和洋折衷」概念の整理、「アジア」ものなど宝塚歌劇における「第三の世界」の歴史と可能性の検討などを通じて、「宝塚スタイルの内部と外部」の問題について論議を行なった。宝塚歌劇を歴史文化的に捉え直すことで、学校に付随する演劇集団としての特性が明らかにされた。また、戦中、戦後の宝塚がいかにアジアを描いてきたかを分析することで、宝塚における異文化受容のあり方を再検討する試みがなされた。さらに現代の宝塚音楽学校が内包する問題についても鋭い指摘が行われた。
■エーリカ・フィッシャー- リヒテ教授連続講演会
講師:エーリカ・フィッシャー- リヒテ Erika Fischer-Lichte
    (ベルリン自由大学教授)
第1 回「『パフォーマンスの美学』について―上演概念に即して」
日時:2009 年9 月29 日(火)16:30 ~ 18:30
場所:早稲田キャンパス 大隈講堂(小講堂)
司会・通訳:平田栄一朗(慶応大学文学部准教授)
第2 回「ギリシャ悲劇、ドイツの上演と日本の上演―伝統、機能、意義」
日時:2009 年9 月30 日(水)18:30 ~ 20:30
場所:早稲田キャンパス 小野記念講堂
司会:丸本隆(GCOE 事業推進担当者・早稲田大学法学学術院教授)
通訳:萩原健(明治大学講師)
  リヒテ教授の近著『パフォーマンスの美学』は、演劇を何よりも上演において考察すべき芸術ジャンルと捉え、それまでのパフォーマンス論を吸収したことによって、包括的で徹底したパフォーマンス基礎理論を構築したとの評価を得ている。第1 回目は、同書が日本でも刊行されたことに鑑み、その論点が、具体的な映像資料を交え、明快に語られた。第2 回目は、日本とドイツで上演されたギリシャ悲劇についてお話いただいた。1970 年代から、日独の両方においてギリシャ悲劇の受容が興味深い形で行われたことが指摘され、鈴木忠志演出の『トロイアの女』(1974)、蜷川幸雄演出の『オイディプース王』(1976)などが参照された。

Ⅲ.各プロジェクトの活動(担当者五十音順)
【比較演劇研究】(秋葉裕一)

本プロジェクトは、ベルトルト・ブレヒトを中心に、ドイツ演劇の受容や影響を、さまざまな文化圏、異なった国々、いろいろな時代や社会のうちに眺めることを目的としている。2009 年度は、ブレヒトを音楽学の側面から考察して著名なヨアヒム・ルケージーJoachim Lucchesi 氏、ドイツにおける演劇学の指導的な研究者であるエーリカ・フィッシャー- リヒテ教授を招聘し、セミナーや講演会を開催した。また、「日本からみたドイツ演劇史」研究会を立ち上げ、その成果を『演劇インタラクティヴ 日本×ドイツ』(早稲田大学出版部 2010 年3 月刊行)にまとめた。一方で、ギュンター・ツォーベル名誉教授の研究上の成果蓄積をさらに進めるべく、日本演劇研究コースとの共催で比較民俗芸能研究会も行っている。
■ブレヒト連続セミナー
講師:ヨアヒム・ルケージー Joachim Lucchesi
    (カールスルーエ大学文学部付置研究所)
  通訳:林立騎(グローバルCOE 研究生)
第1 回「『乞食オペラ』から『三文オペラ』へ」
  日時:10 月13 日(火)16:30 ~ 18:30
  場所:国際会議場共同研究室1
第2 回「ハンス・アイスラーの「映画音楽プロジェクト」」
  日時:10 月14 日(水)16:30 ~ 18:30
  場所:国際会議場共同研究室7
第3 回「ハンス・アイスラーの「ハリウッド歌謡集」」
  日時:10 月17 日(土)16:30 ~ 18:30
  場所:国際会議場共同研究室7
  『三文オペラ』『マハゴニー市の興隆と没落』などに明らかなように、音楽はブレヒトの演劇において大きな役割を果たしている。セミナーでは、音楽資料からブレヒト劇を考察する試みがなされた。
■「日本からみたドイツ演劇史」研究会
  『演劇インタラクティヴ 日本×ドイツ』の執筆順に、研究会参加者の名前を掲げておく。中島裕昭、尾方一郎、本田雅也、丸本隆、谷川道子、市川明、萩原健、秋葉裕一、大塚直、四ツ谷亮子(以上敬称略)。研究会の実施日時と会場は以下のとおり。
第1 回 2009 年 5 月23 日(土)14:00 ~ 18:00 国際会議場共同研究室7
第2 回 2009 年 7 月25 日(土)14:00 ~ 20:00 26 号館301 会議室
第3 回 2009 年 8 月 6 日(木)14:00 ~ 19:30 26 号館301 会議室
第4 回 2009 年10 月 3 日(土)14:00 ~ 20:00 26 号館301 会議室
第5 回 2009 年11 月 7 日(土)14:00 ~ 19:00 14 号館804 会議室
第6 回 2010 年 1 月14 日(木)16:30 ~ 20:00 26 号館301 会議室
■比較民俗芸能研究会(日本演劇研究コースとの共催)
第1 回  2009 年4 月7 日(火)18:15 ~ 21:00
早稲田キャンパス人間総合研究センター分室
  総会「活動方針の協議及び年間計画の策定」
第2 回  2009 年5 月26 日(火)18:15 ~ 21:00
早稲田キャンパス8 号館307 教室
1.発表者:長谷川悦朗(GCOE 研究協力者・早稲田大学非常勤講師)
    題目「ドイツ語圏の謝肉祭博物館―「第五の季節」の点と線」 
2.発表者:林敬太(早稲田大学大学院)
    題目「近代ファスナハト仮面の成立」
第3 回  2009 年6 月30 日(火)18:15 ~ 21:00
早稲田キャンパス8 号館307 教室
  1.発表者:嶋内博愛(東京大学大学院)
    題目「ケルンテンのファッシング」
  2.発表者:岡田恒雄(GCOE 研究協力者・明星大学教授)
    題目「折口信夫の「花祭り」 その1」
第4 回  2009 年7 月28 日(火)18:15 ~ 21:00
早稲田キャンパス8 号館307 教室
  1.発表者:長谷川悦朗(GCOE 研究協力者・早稲田大学非常勤講師)
    題目「スイス主要都市の謝肉祭の調査報告」
  2.発表者:菊地隆一(民俗芸能研究家)
    題目「番楽・山伏神楽 ―杉沢比山番楽を中心に」
第5 回  2009 年9 月15 日(火)18:15 ~ 21:00
早稲田キャンパス8 号館307 教室
  1.発表者:嶋内博愛(東京大学大学院)
    題目「スイスのカルナヴァルとその仮面」
  2.発表者:岡田恒雄(GCOE 研究協力者・明星大学教授)
    題目「折口信夫の「花祭り」 その2」
第6 回  2009 年10 月20 日(火)18:15 ~ 21:00
早稲田キャンパス8 号館405 教室
  1.発表者:岡田恒雄(GCOE 研究協力者・明星大学教授)
    題目「折口信夫の「花祭り」 その3」
  2.発表者:長谷川悦朗(GCOE 研究協力者・早稲田大学非常勤講師)
    題目「スイス謝肉祭視察について」
第7 回  2009 年11 月10 日(火)18:15 ~ 21:00
早稲田キャンパス8 号館417 教室
  1.発表者:菊地隆一(民俗芸能研究家)
    題目「梅津神楽視察について その1」
  2.発表者:嶋内博愛(東京大学大学院)
    題目「 バーゼル市とバーズラー・ファスナハトに関する基礎的情報及び研究に向けての整理と展望」
第8 回  2009 年12 月8 日(火)18:00 ~ 21:00
早稲田キャンパス8 号館417 教室
  発表者:菊地隆一(民俗芸能研究家)
  題目「梅津神楽視察について その2」
第9 回  2010 年1 月13 日(水)19:30 ~ 21:00
早稲田キャンパス8 号館307 教室
  発表者:菊地隆一(民俗芸能研究家)
  題目「梅津神楽視察について その3」
※「梅津神楽」視察 2010 年1 月16 日(土)~ 17 日(日)静岡県榛原郡川根本町
第10 回  2010 年2 月2 日(火)18:15 ~ 21:00
早稲田キャンパス8 号館417 教室
  発表者:林敬太(早稲田大学大学院)
  題目「ヨーロッパ古層の異人たち」
第11 回  2010 年3 月30 日(火)18:15 ~ 21:00
早稲田キャンパス26 号館302 会議室
  1.発表者:嶋内博愛(東京大学大学院)
    題目「テューリンゲンのカルナヴァル」
  2.発表者:岡田恒雄(GCOE 研究協力者・明星大学教授)
    題目「バーゼル謝肉祭視察報告」

【ベケット・ゼミ】(岡室美奈子)
ベケット・ゼミは2009 年度、国際サミュエル・ベケット協会会長で、国際演劇学会ベケット・ワーキンググループのオーガナイザーも務めるリンダ・ベン- ツヴィ氏を招へいし、講演会を開催した。またGCOE 研究生による研究発表に対して、ベン- ツヴィ教授が講評と指導を行う全4 回に渡るセミナーの機会を設けることが出来た。ベケットの研究書を数多く手がけ、後進の教育にも非常に熱心な教授のセミナーは、世界的な研究水準を学ぶのに絶好の機会であり、参加者の今後の研究活動に大きく貢献するものとなった。また、日本の若手研究者の研究水準の高さをアピールする絶好の機会にも
なった。今後もこれらの成果を踏まえて演劇研究センターを、日本国内のみならず、国際的ベケット研究拠点として更に発展させ、2011 年度の論文集出版を目指したい。
■ベケット・ゼミ講演会
講師:リンダ・ベン- ツヴィ(テルアビブ大学、コロラド州立大学名名誉教授)
日時:2009 年11 月14 日(土)17:00 ~ 18:30
場所:早稲田キャンパス14 号館515 教室
題目:「21 世紀におけるベケットのテレビ作品」
  メディア論的視点からのベケット研究の権威であるリンダ・ベン- ツヴィ氏に、21 世紀におけるメディアの変貌や新たなテクノロジーの登場が、ベケットのテレビ作品を研究、または上演する方法をどのように変えてきたのかについて、ダイナミックな講演を行っていただいた。講演の後に設けられた質疑応答では参加者たちにより、ベケット作品上演の新たな可能性やそれが少なからず孕む問題系についての議論が交わされた。
■ベケット・ゼミ セミナー
講師:リンダ・ベン- ツヴィ(テルアビブ大学、コロラド州立大学名名誉教授)
第一回セミナー
日時:11 月13 日(金)14:45 ~ 16:15
場所:戸山キャンパス39 号館第7 会議室
発表者:岸本佳子(GCOE 研究生)
第二回セミナー
日時:11 月16 日(月)14:45 ~ 16:15
場所:戸山キャンパス39 号館第7 会議室
発表者:景英淑、片岡昇(GCOE 研究生)
第三回セミナー
日時:11 月20 日(金)14:45 ~ 16:15
場所:戸山キャンパス39 号館第7 会議室
発表者:杉本文四郎(GCOE 研究生)
第四回セミナー
日時:11 月23 日(月)14:45 ~ 16:15
場所:戸山キャンパス33-2 号館第2 会議室
発表者:久米宗隆、鈴木哲平(GCOE 研究生)

【西洋演劇身体表象研究】(坂内太)
西洋演劇、及び戯曲調のテクストにおける身体表象の研究を推進した。また、身体表象研究会を定期的に開催し、GCOE研究生によってモダニズムにおける西洋の人形劇を巡る研究発表などがなされた。また昨年度に引き続き参加者全員によって、人間の身体と人形・機械とが対置される様々な戯曲や映像作品についての分析や検証が行なわれた。

【ポストコロニアル演劇研究】(澤田敬司)
ポストコロニアル状況の中から生まれた演劇作品について研究を推進した。国内外から講師を招へいし実現した「アイヌと北米先住民のダンス・ワークショップ&レクチャー」においては、研究生をはじめとした多くの参加者を得ることができ充実したイベントとなった。また、研究生による研究発表を行ない、研究指導の推進を図ることができた。
■イヴェント
「アイヌと北米先住民のダンス・ワークショップ&レクチャー」
日時:2009 年10 月7 日(水)18:00 ~ 20:30
場所:早稲田キャンパス 国際会議場3 階第1 会議室
講師: 酒井美直(「Ainu Rebels」代表、( 財)「アイヌ文化振興・研究推進機
構」アイヌ文化アドバイザー)、デイスター/ ローザリー・ジョーンズ
(「Daystar」芸術監督、カナダ・トレント大学講師、振付家、ダンサー)
  本企画は日本と北米の先住民族のダンスレクチャーを、ワークショップ形式で行なった。酒井美直氏のワークショップでは、アイヌ舞踊の基本的な動作、リズム、掛け声を学び、動物などを独特の身体技法によって表現した。デイスター・ジョーンズ氏は、北米の先住民の歴史を学びつつ、実際に使われる楽器の実演などと共にその踊りを体験できるワークショップを行なった。この試みにより現代、芸術と民族の伝統がどう融合をみせているかについて理解を深めることが出来た。まだ一般的に、その存在が理解されているとはいえない先住民による芸術を、自らの身体によって表現してみることが参加者たちにとって非常に有意義な経験になったと思われる。
■研究会
発表者:長門洋平(GCOE 研究生、総合研究大学院大学博士後期課程)
日時:2009 年11 月10 日(火)15:00 ~ 17:00
場所:早稲田キャンパス国際会議場4 階 共同研究室7
題目:「溝口健二『赤線地帯』(1956)の音響デザイン」
  本研究会では、「溝口健二『赤線地帯』(1956)の音響デザイン」と題し、総合研究大学院大学文化科学研究科国際日本研究専攻博士後期課程所属でグローバルCOE 研究員でもある長門洋平氏が、研究発表を行った。溝口健二監督の遺作『赤線地帯』の音楽は、作品発表直後に映画批評の老大家・津村秀夫と同作の若き作曲家・黛敏郎との間で交わされた「赤線地帯論争」で有名である。長門氏はそうした事実に触れながら、黛の譜面をもとに特に12 音技法の使用に注目して、音楽におけるブレヒト的な異化効果の可能性についての考察を、実際の映像や音声を交えながら行った。発表の後に設けられたディスカッションでは参加者たちにより、ポストコロニアル、社会文化史的背景、演劇学との接点など、さまざまな問題について議論が交わされた。

【フランス語圏舞台芸術研究】(藤井慎太郎)
2009 年度は、フランス国立科学研究所上級研究員で、早稲田大学演劇博物館上級研究員として3 ヶ月間日本に滞在されたベアトリス・ピコン= ヴァラン先生(Béatrice Picon-Vallin)による、ロシア演劇、現代演出史、メイエルホリドに関するセミナーが開催された。また、GCOE2008 年度事業として翻訳出版した『演劇学の教科書』(2009 年3 月国書刊行会)の著者三氏を迎えた連続講演会やベルギー舞台芸術研究会等も行った。
■「演出の20 世紀」連続ゼミ
講師:ベアトリス・ピコン= ヴァランBéatrice Picon-Vallin(フランス国立科学研究所上級研究員・早稲田大学演劇博物館上級研究員)
第1 回「演出家の到来」
  日時:2009 年5 月12 日(火)18:00 ~ 21:00
  場所:早稲田キャンパス26 号館302 会議室
第2 回「「演出家と芸術演劇」概念」
  日時:2009 年5 月19 日(火)18:00 ~ 21:00
  場所:早稲田キャンパス26 号館302 会議室
第3 回「演出家と新しい空間のヴィジョン アッピアとクレイグの重要性」
  日時:2009 年5 月26 日(火)18:00 ~ 21:00
  場所:早稲田キャンパス26 号館302 会議室
第4 回「 過去から現在へ ヨーロッパにおける何人かの偉大な演出家 教育の問題」
  日時:2009 年6 月2 日(火)18:00 ~ 21:00
  場所:早稲田キャンパス26 号館302 会議室
第5 回「新テクノロジーと演出家の役割の変容」
  日時:2009 年6 月9 日(火)18:00 ~ 21:00
  場所:早稲田キャンパス26 号館302 会議室
■「メイエルホリドと現代ロシア演劇」連続ゼミ
講師:ベアトリス・ピコン= ヴァランBéatrice Picon-Vallin (フランス国立科学研究所上級研究員・早稲田大学演劇博物館上級研究員)
第1 回  2009 年5 月27 日(水)14:45 ~ 17:30、早稲田キャンパス国際会議場共同研究室6
第2 回  2009 年6 月17 日(水)10:40 ~ 13:30、早稲田キャンパス国際会議場共同研究室7
第3 回  2009 年7 月1 日(水)14:45 ~ 17:30、早稲田キャンパス国際会議場共同研究室7
  第1 回目は、主に革命前の演出家としてのメイエルホリドの創作活動について
お話いただいた。メイエルホリドが《演出》《演出家》という、当時は新しいものであった概念を形成するために行った実験の数々、それに伴う多大な知的努力が、川上貞奴や佐野碩ら日本の演劇人との直接的・間接的交流への言及を交えて紹介された。(ロシア語・逐次通訳付き)
  第2 回目では、メイエルホリド演劇の革新的手法が、『検察官』という代表作を通して確認された。『検察官』の記録映像はほんの断片しか残っておらず、われわれが芝居の全体像を眼にする可能性はない。アーカイヴに残された演出ノート、断片映像、写真、エスキス、同時代の批評、その他の多くの資料を用いた緻密な研究からピコン=ヴァラン先生によって再現された『検察官』像はきわめて刺激的であった。(ロシア語・逐次通訳付き)
  最終回では、現代演劇に見るメイエルホリドの影響が語られた。ブレヒト、グロトフスキーら20 世紀の演出家がメイエルホリドの影響下にあったこと、彼の考案した演出の手法や演技の方法は考案者の名を冠しないまま演劇文化に入り込み、定着していった部分があることが論じられた。また、現代ロシアの演出家ピョートル・フォメンコやワレーリイ・フォーキンにおけるメイエルホリドの演出法の利用や影響が具体的に分析された。(ロシア語・逐次通訳付き)
■ベアトリス・ピコン=ヴァラン先生最終講義
  (芸術文化環境研究コースとの合同研究会)
レクチャー・ディスカッション:「日本の演劇について」
講師:ベアトリス・ピコン=ヴァランBéatrice Picon-Vallin
    (フランス国立科学研究所上級研究員・早稲田大学演劇博物館上級研究員)
日時:2009 年7 月14 日(火)18:30 ~ 21:00
場所:早稲田キャンパス国際会議場共同研究室7
  日本滞在中に自らの目で観た作品群と、川上貞奴、土方与志、佐野碩らメイエルホリドと関わりの深い演劇人の研究を通してみた日本演劇の特質、および現代日本の演劇状況が、欧州の演劇と比較されながら考察された。また、フランス・ロシア・日本語圏の演劇研究者が一堂に会する場ともなった。(フランス語・ロシア語逐次通訳付き)
■「『演劇学の教科書』をめぐって」連続講演会
  『演劇学の教科書』(2009 年3 月国書刊行会)の著者三氏を迎え、同書の内容を詳細に議論する機会を設けた。並行して、各氏の専門分野に特化した研究会を開催した。
第1 回「演劇の場 その政治的、社会的、美学的意味」(芸術文化環境研究コースとの合同研究会)
講師:クリスティアン・ビエChristian Biet(パリ第10 大学教授)
    クリストフ・トリオーChristophe Triau(パリ第7 大学准教授)
    エマニュエル・ヴァロンEmmanuel Wallon(パリ第10 大学教授)
モデレーター・藤井慎太郎(GCOE 事業推進担当者・文学学術院准教授[10 年度現在教授])
日時:2009 年6 月22 日(月)18:00 ~ 21:00
場所:早稲田キャンパス6 号館3 階318 教室
第2 回「政治の上演 表象の政治学」(芸術文化環境研究コースとの合同研究会)
講師:クリスティアン・ビエChristian Biet(パリ第10 大学教授)
    クリストフ・トリオーChristophe Triau(パリ第7 大学准教授)
    エマニュエル・ヴァロンEmmanuel Wallon(パリ第10 大学教授)
モデレーター:松井憲太郎(GCOE 客員講師)
日時:2009 年6 月23 日(火)19:00 ~ 21:00
場所:東京日仏学院 エスパス・イマージュ
第3 回「17 世紀演劇の現代性」
講師:クリスティアン・ビエChristian Biet(パリ第10 大学教授)
    クリストフ・トリオーChristophe Triau(パリ第7 大学准教授)
モデレーター:千川哲生(GCOE 研究生[2010 年度現在広島大学准教授])
日時:2009 年6 月24 日(水)18:00 ~ 21:00
場所:早稲田キャンパス26 号館302 会議室
第4 回「 ヨーロッパの文化政策 リスボン戦略における創造性と文化産業の問題を中心に」(芸術文化環境研究コースとの合同研究会)
講師:エマニュエル・ヴァロンEmmanuel Wallon(パリ第10 大学教授)
日時:2009 年6 月25 日(木)18:00 ~ 21:00
場所:早稲田キャンパス国際会議場共同研究室7
  第1 回目は、演劇と切り離すことができない「場」について、豊富な映像を交えつつ、歴史とジャンルを横断しながら議論が展開された。第2 回目では、演劇と政治の関係が論点となった。民主主義の運動は、演劇にどのような可能性をもたらしたのか。アルマン・ガティ、アウグスト・ボアールなどから、同時代の現実に応答し記憶を共有化するグルーポフの作品に至るまで、まだ日本ではあまり知られていない20 世紀演劇の成果を振り返った。第3 回目では、現代における研究と実践が明らかにしてきた17 世紀演劇の意義が検証された。当時の上演のあり方だけでなく、現代における新しい形での演出についても言及された。第4回目は、『演劇学の教科書』の「補論」の執筆者で、演劇政治学の専門家であるヴァロン氏に、ヨーロッパ文化政策の動向について講義していただいた。EU 成立過程における歴史的論点を踏まえ、具体的な時事分析にも触れながら、EU 文化政策とリスボン戦略で掲げられる「創造性」の問題点や文化産業関連規制の問題が論じられた。
■ ベルギー舞台芸術研究会「ベルギー、フランダースの舞台芸術の歴史と現在」
(芸術文化環境研究コースとの合同研究会)
  過去四半世紀にわたって、ベルギー、とりわけフランダースの舞台芸術は、革新的かつ多様な創造性を見せ、世界をリードしてきた。そのフランダースにおいて、舞台芸術の研究と創造の最前線で活動してきたルック・ファン・デン・ドゥリース教授Luc Van den Dries(アントワープ大学教授、演劇学)、サラ・ヤンセン氏Sara Jansen(ドラマトゥルク、舞踊研究)を迎え、フランダースの舞台芸術の歴史と現在をめぐる研究会を開催した。
第1 回「フランダースの舞台芸術の歴史 その社会的、歴史的、文化的背景」
日時:1 月29 日(金)18:00 ~ 21:00
会場:早稲田キャンパス6 号館318 教室
第2 回「 フランダースの舞台芸術の現在 ファーブル、ドゥ・ケースマイケル、ロワースとその後」
日時:1 月30 日(土)15:00 ~ 18:00
会場:戸山キャンパス36 号館演劇映像実習室
第3 回「『ナイン・フィンガー』 作品とその創造プロセスをめぐって」
日時:2 月2 日(火)18:00 ~ 21:00
会場:早稲田キャンパス26 号館302 会議室
  ベルギー、フランダースから来日するアーティストは数多いものの、ベルギー、フランダースのきわめて独特な社会の成立の経緯、文化的な特徴は日本で十分に知られているとはいえない。第1 回目では、第二次世界大戦後のフランダース社会の根本からの変化が、いかにして舞台芸術の環境を刷新し、革新的な表現を生み出すことにつながったのか、その背景が論点となった。第2 回目は、フランダースの現代舞台芸術を代表する3 人のアーティスト、ヤン・ファーブル、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル、ヤン・ロワースを取り上げ、映像資料を交えながら分析が行われた。第3 回目は、『ナイン・フィンガー』(彩の国さいたま芸術劇場にて2 月6 ~ 7 日上演)について、作品の創造過程をよく知るヤンセン氏の証言と分析を中心に、その独特な創造プロセス、作品が有する射程についての考察がなされた。

【シェイクスピア・ゼミ】(冬木ひろみ・本山哲人)
シェイクスピア・ゼミでは、シェイクスピア、および同時代の劇作家について、最先端の現代批評と緻密なテクスト解釈の両面からアプローチをし、シェイクスピア研究の水準を高める場としている。本ゼミが掲げる目標は、テクスト論と上演論をつなぐ最も有効な方法論を模索しつつ、立体的な演劇の場の中でテクスト分析を行うことである。2009年度は、事業推進担当者である冬木と本山がプロジェクトを統括し、国内外で顕著な活動をしている研究者を招聘したセミナー、研究員たちによる自身の研究の発表などを随時行なった。
■講演会、研究会
第1 回講演会
講師:佐々木 和貴(秋田大学教授)
日時:2009 年7 月12 日(日)15:30 ~ 17:00
場所:早稲田キャンパス26 号館302 教室
題目:「Shakespeare Made Fit:テイト版『リア王』をめぐる一考察」
  ネイハム・テイトによる、シェイクスピア『リア王』の翻案を扱った。このテイト版『リア王』は1680 年に創作された。以後、イギリスで上演される『リア王』は19 世紀前半に至るまで、もっぱらテイト版に由来するハッピーエンドの『リア王』であった。本講演では、なぜテイト版が約150 年にもわたってイギリスの舞台で支持されてきたのかを、当時の批評家、文学者、劇作家などの証言をたどることにより、明らかにしていった。
第2 回講演会
講師:Kenji YOSHINO(ニューヨーク大学法科大学院教授)
日時:2009 年7 月18 日(土)15:30 ~ 17:30
場所:早稲田キャンパス26 号館302 会議室
題目: The Trial of the Three Caskets: Law, Equity and Mercy in The Merchant of Venice
  この講演は、『ヴェニスの商人』における裁きの場面が、3 つあるということを論じるものであった。それは、3 つの筺をめぐる裁き、肉の契約をめぐる裁き、そして指輪をめぐる裁きである。裁かれる者はそれぞれ3 つの選択肢を突き付けられ、それは法律、慈悲、衝平に対応するものである。また、裁かれる者はそれぞれ自由意思で選択をしているようにも思えるが、実はポーシャが雄弁術を用いることにより、結果を左右している。これにより、ポーシャは弁護士のような役割を果たしており、弁護士という職業が持つ光と影の部分を体現している。
シェイクスピア・ゼミ研究会
講師:Kenji YOSHINO(ニューヨーク大学法科大学院教授)
日時:2009 年7 月19 日(日)15:30 ~ 17:30
場所:早稲田キャンパス26 号館302 会議室
題目:The Law and Shakespeare
  本研究会は、法律を論ずる上でシェイクスピア作品に言及していくことの意味と、シェイクスピア研究を行う上で法律的な視点やアプローチが果たすことのできる役割を考察することを目的とするものであった。結婚や遺産に関する当時の法律を通して『ハムレット』を考察するなど、参加した各GCOE 研究生の研究テーマに沿って、助言をするような形でレクチャーは進められていった。法律の専門家であるヨシノ氏による発言は研究生たちにとって新鮮なものであり、非常に有益な研究会となった。
第3 回講演会
講師:河合 祥一郎(東京大学准教授)
日時:2009 年10 月17 日(土)16:00 ~ 17:40
場所:早稲田キャンパス26 号館302 会議室
題目:「シェイクスピアの劇のことば」
  河合氏の講演は、新訳シェイクスピア翻訳における、ご自身の訳出方針をもとにしたものであり、劇作品や登場人物を解釈するにあたって、重要なヒントを与えてくれる台詞のリズムをどのように読み込めばよいのかを扱ったものであった。シェイクスピア劇の台詞は、韻文と散文で書かれている。韻文はフェミニンエンディングとマスキュリンエンディング、さらには無韻詩とライムで書かれており、それぞれの形式にはシェイクスピアにより意味が込められている。河合氏の講演は、シェイクスピア劇を研究するにあたって、基本的ではあるが、見落としてしまいがちな、台詞のリズムの重要性を再認識させるものであった。
第4 回講演会
講師:市川真理子(東北大学大学院国際文化研究科教授)
日時:2009 年11 月14 日(土)15:00 ~ 17:00
場所:早稲田キャンパス26 号館302 会議室
題目:「シェイクスピア劇のオリジナル・スティジングの研究について」
  本イベントでは、テキストにあるト書きや台詞に焦点を当てることで、シェイクスピア上演論や劇場研究を新たな地平を開いた市川真理子氏による講演が行われた。劇場研究の世界的な第一人者であるアンドリュー・ガー氏と共に市川氏が行った研究は、これまで論じられ得ないものと考えられてきた、シェイクスピア劇の初演時の状況を鮮やかに蘇らせる刺激的なものであり、本講演会はその一端に触れることが出来る、貴重な機会となった。講演の後に設けられた質疑応答では参加者たちにより、シェイクスピア劇上演をめぐる様々な問題について、活発な議論が交わされた。
第5 回講演会
講師:森 祐希子 (東京農工大学大学院 共生科学技術研究院 言語文化科学部門教授)
日時:2009 年12 月19 日(土)15:00 ~ 17:00
場所:戸山キャンパス36 号館682 教室
題目:「 テクストからスクリーンまで:『ロミオとジュリエット』のバルコニーシーン」
  本イベントでは、知らぬ人のいない『ロミオとジュリエット』の最も有名な場面であるバルコニーシーンの分析を通じて、このシーンが内包する身体感覚の問題や演出の多様性の問題について、映像資料を参考にしながら、いかに捉え直され得るものであるか、森氏にご講演いただいた。誰もが見聞したことのある作品である故に、見逃されがちな重要な側面に光を当てる森氏の研究は、参加者たちにとって非常に刺激的なものであり、講演の後に設けられた質疑応答では、シェイクスピア劇上演をめぐる様々な問題について、活発な議論が交わされた。
第6 回講演会
講師:末松美知子(群馬大学社会情報学部教授)
日時:2010 年1 月23 日(土)15:30 ~ 17:00
場所:早稲田キャンパス26 号館302 会議室
題目:「劇場空間とシェイクスピア」
  シェイクスピア・ゼミでは、これまで様々な角度からシェイクスピア作品のテキストと上演に関しての講演を行ってきたが、今回は、上演を論じるのに切っても切れない劇場空間の意味や重要性という、まだ十分に検証されていない問題が扱われた。日英の上演作品の映像資料などが用いられると共に、上演研究やテキスト研究と実践も焦点となり、上演研究の方法論についても詳しく言及された。18 世紀、19 世紀の上演研究をしている研究生も多いことから、非常に刺激的な、実りの多い講演会となった。

【オペラ/音楽劇の総合的研究】(丸本隆)
本プロジェクトは、演劇学・音楽学をはじめとする学術諸分野の学際的アプローチを通じたオペラ/音楽劇の総合的研究を目指して、21 世紀COE 以来、8 年にわたり多様な活動を展開してきたが、2009 年度は、研究生の発表や外来講師の講演による研究会を主軸に据え、本プロジェクトが大目標として掲げる「オペラ学の確立」「オペラ/音楽劇研究の進展」の可能性についての考察を進めた。研究会の詳細は以下の通りである。
第1 回  2009 年4 月17 日(金)18:15 ~ 20:45
早稲田キャンパス8 号館405 教室
  報告者: 山田高誌(GCOE 研究生・日本学術振興会海外特別研究員・イタリア国立バーリ音楽院付属音楽研究所)
  1:「「オペラ研究」の枠組みと今後の課題 ― 音楽学- 劇場史の観点から」
  2:「 オペラ観劇の「仕組み」 ― 18 世紀末から19 世紀にかけてのナポリの諸劇場のチケット代金、および観客を例として」
第2 回  2009 年5 月19 日(火)18:15 ~ 20:45
早稲田キャンパス8 号館307 教室
  報告者:中村仁(GCOE 研究生)
  「ヒンデミット≪行きと帰り≫における「時間」と「物語」についての考察」
第3 回  2009 年6 月23 日(火)18:15 ~ 20:45
早稲田キャンパス8 号館307 教室
  報告者:オペラ研究会所属のGCOE 研究生
  「各研究員による博士論文進展状況についての報告とディスカッション」
第4 回  2009 年8 月4 日(火)18:15 ~ 20:45
早稲田キャンパス8 号館219 教室
  報告者:白井史人(GCOE 研究生)
  「 オペラ《モーゼとアロン》の映像化を巡って:ストローブ=ユイレからシェーンベルクへ」
第5 回  2009 年10 月6 日(火)18:15 ~ 20:45
早稲田キャンパス14 号館804 教室
  報告者:袴田麻祐子(GCOE 研究生・昭和音楽大学研究員)
  「大正末~昭和初期の異文化受容をめぐる諸相 オペラ・浅草・高木徳子」
第6 回  2009 年11 月27 日(金)18:30 ~ 20:30 ~ 20:45
早稲田キャンパス国際会議場 共同研究室7
  講師:桑原和美(就実大学人文科学部教授)
  「戦前の西洋舞踊受容と「宝塚歌劇」―楳茂都陸平と岩村和雄の前衛」
第7 回  2010 年2 月19 日(金)18:30 ~ 20:30
早稲田キャンパス120-1 号館201-202 会議室
  講師:鈴木国男(共立女子大学教授)
  「イタリアオペラ『アイーダ』と宝塚歌劇『王家に捧ぐ歌』」

【アイルランド演劇研究会】(三神弘子)
アイルランド演劇研究会では、2009 年度からアイルランド演劇研究会を定期的に開催し、アイルランド演劇の伝統について再考している。アビーシアター設立以降、現代に至るまでのアイルランド演劇の伝統を概観しながら、社会的、歴史的、政治的コンテクストを検討し、21世紀の視点で、ナショナル・アイデンティティの問題、ポスト・コロニアリズム、演劇における女性の表象、ケルティック・タイガー以降のアイルランド演劇といった視点で考察を行なっている。2009 年度は研究会にくわえ、アイルランド演劇研究者を海外から招へいし、講演会やセミナーを開催し研究生の研究にとっても有益な成果を得ることができた。
■講演会、セミナー、研究会
アイルランド演劇研究会講演会
講師:リナ・オドワイヤー(アイルランド国立大学ゴールウェイ校上級講師)
日時:2009 年10 月17 日(土)15:00 ~ 18:00
場所:早稲田キャンパス6 号館318 教室
題目:‘How some people live’: a study of Tom Murphy’s later plays
  本研究会では、リナ・オドワイヤー氏による講演と、参加者を含めたディスカッションが行われた、オドワイヤー氏の講演は、現代アイルランド演劇を代表する劇作家のひとりであるTom Murphy の主要な作品をとりあげ、2009 年の新作The Last Days of a Reluctant Tyrant にいたるまでの軌跡を辿るものであった。80 年代にMurphy はドルイド劇団のwriter-in-association として多くの代表作を書いたが、その裏には女性演出家Garry Hynes の強力な影響力があったことが指摘された。次に90 年代中頃からのアイルランドはケルトの虎と呼ばれる未曾有の経済発展をとげたが、Murphy の作品中でこの社会的な大転換がどのように表象されているのか、特に移民というテーマから検証された。
アイルランド演劇研究会セミナー
講師:ショーン・リチャーズ(スタフォードシャー大学)
日時:2010 年3 月8 日(月)15 時00 分~ 18 時00 分
場所:早稲田キャンパス11 号館1453
題目: Into the Future Tense: Stewart Parker’s Theatre of ‘Anticipatory Illumination’
  本研究会では、ショーン・リチャーズ氏によるセミナーと、参加者を含めたディスカッションが行われた。1988 年に47 歳という若さでこの世を去った、スチュアート・パーカーの演劇に特に焦点を絞って検討していただいた。特に、パーカーの作品をアイルランド、特に北アイルランド紛争という個別のコンテクストを超えたところにある人間の解放の問題を扱ったドラマとして読み解くという試みは、参加者たちにとって非常に興味深いものとなった。
第1 回研究会
講師:舟橋美香(青山学院大学非常勤講師)
日時:2009 年4 月18 日(土)15:00 ~ 16:30
報告者:磯部哲也(愛知工業大学教授)、山田久美子(愛知淑徳大学非常勤講師)
日時:2009 年4 月18 日(土)16:30 ~ 17:00
場所:早稲田キャンパス11 号館1453 共同研究室
題目:「Patricia Burke Brogan のEclipsed(1988)について」
  本研究会では、舟橋美香氏によるPatricia Burke Brogan のEclipsed(1988)に関する講演が行われ、その後、磯部哲也、山田久美子両氏からダブリンのアンドリュー・レーン劇場における上演に関する報告があった。その後、参加者を含めたディスカッションが行われた。Magdalene Sisters(邦題『マグダレンの祈り』)(2002)は、Eclipsed を下敷きに製作された映画であるが、二つの作品がジャンルの相違以上にアプローチの違いがあることが指摘された。また、Eclipsed が書かれたアイルランドのコンテクスト:Field Day Theatre Company がさかんに活動を行っていた時代。ストーリー/歴史をいかに語るかということが意識された時代であったことが確認された。また、Eclipsed がアイルランド現代演劇史において、比較的評価が高くない理由についても議論した。
第2 回研究会
講師:三神弘子(GCOE 事業推進担当者・早稲田大学国際学術院教授)
日時:2009 年7 月4 日(土)15:00 ~ 18:00
場所:早稲田キャンパス11 号館1453 共同研究室
題目:「復活祭1916 をめぐる演劇について」
  本研究会では、三神弘子による講演と、参加者によるディスカッションが行われた。三神は、1916 年のイースター蜂起をテーマとした演劇作品について、テキスト分析を行った。[Sean O’Casey: The Plough and the Stars (1926)/Denis Johnston: The Scythe and the Sunset (1958)/ Eugene McCabe: Pull Down a Horseman (1966)/ Tom Murphy: The Patriot Game (1991)]4 作品は、同じ歴史的事件を扱っているが、執筆された時代によって、作品のアプローチの仕方が全く異なっていることが指摘され、それは、復活祭蜂起に関するアイルランド社会のスタンスが時代によって変化していることに連動することが確認された。
第3 回研究会
講師:磯部哲也(愛知工業大学教授)
日時:2009 年10 月3 日(土)15:00 ~ 18:00
場所:早稲田キャンパス11 号館1453 共同研究室
題目:「映画を題材にした演劇作品について」
  本研究会では、磯部哲也氏による講演と、参加者を含めたディスカッションが行われた。磯部氏は、Marie Jones: Stones in His Pockets (1999)/ Martin McDonagh: The Cripple of Inishmaan (1997)/ Denis Jonston: Storm Song (1934) の3 作品を取り上げ、映画というジャンルを意識することによって、演劇が活性化するプロセス、またその可能性にについて、詳細なテキスト分析を元に検証した。
第4 回研究会
講師:山田久美子(愛知淑徳大学非常勤講師)
日時:2010 年1 月9 日(土)15:00 ~ 18:00
場所:早稲田キャンパス11 号館1453 共同研究室
題目:「北アイルランドの女性劇作家について」
  アイルランド演劇、特に女性劇作家、北アイルランド演劇の専門家である山田氏に、北アイルランドの演劇が南の共和国のそれとは少し異なった発展の軌跡をたどっているという点に着目した講演を行なっていただいた。現代の北アイルランド演劇を読み解くには必須のテーマであることもあり、講演後は活発な議論が交わされた。
第5 回研究会
講師:ショーン・リチャーズ(スタフォードシャー大学)
日時:平成22 年3 月6 日(土曜日)15 時00 分~ 18 時00 分
場所:早稲田キャンパス11 号館1453 共同研究室
題目:Theatre is Space: Beyond the Texts of Irish Drama
  本研究会では、IASIL(International Association for the Study of Irish Literatures)の理事と、Irish Studies Review の編集委員を務めているショーン・リチャーズ氏による講演と、参加者を含めたディスカッションが行われた。アイルランド演劇における場所、空間について、テキスト分析を超えた、分析のための新たな方法論の確立をめざし、総括的に検討していただいた。学会を牽引する研究者の一人として国内外で高い評価を受けているリチャーズ氏の講演を踏まえ、活発な議論が交わされ充実したイベントとなった。

【17 世紀フランス演劇研究会】(オディール・デュスッド)
2009 年度は、月1 回の勉強会の他に、以下の研究発表会を開催した。専門的なことを詳細に探求するかたわら、絵画から、また18 世紀戯曲からなど広い視点で17 世紀演劇を見たり、ラシーヌ・コルネイユなどの大作家を比較して見るなど、普段では出来ない研究会を実現することができた。
■研究会
第1 回「subulime とcoloris ―美学的地平の発生について」
  発表者:白石嘉治(GCOE 研究協力者)
  日時:2009 年7 月24 日(金)16:00 ~ 18:00
  場所:早稲田キャンパス国際会議場共同研究室7
第2 回「18 世紀末の女性作家の戯曲に見られる女性像について」
  発表者:高瀬智子(明治大学専任講師)
  日時:2009 年11 月21 日(土)15:00 ~ 17:00
  場所:早稲田キャンパス国際会議場共同研究室7
第3 回「コルネイユとラシーヌの演劇理論」
  発表者:友谷知己(関西大学教授)
      千川哲生(GCOE 研究生[2010 年度現在広島大学准教授])
  日時:2009 年12 月19 日(土)15 時~ 18 時
  場所:早稲田キャンパス14 号館809 室


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