2010年度活動報告
Ⅰ.概要
西洋演劇研究コースでは、多角的な視点から西洋演劇を考察し、研究生の博士論文執筆を支援するとともに、国内はもとより海外での学会発表や国際的な学術誌への論文投稿を促進し、日本の西洋演劇研究に寄与し、国際的に活躍し得る演劇研究者の育成を図っている。これらの目的達成のため、事業推進担当者が推進する各研究プロジェクトでは多彩なテーマに沿った研究活動および研究生の指導を行っている。さらにコース全体の活動として、博士論文経過報告会、英語ゼミ、国内外より著名な西洋演劇研究者を招いての演劇論講座やセミナーを開催するほか、世界的に著名な研究者を海外より招へいしグローバルCOE(以下GCOE)研究生に直接指導を受ける機会を提供するなど、総合的な教育・研究活動を展開している。西洋コースでは9 つの個別プロジェクトを設置し、GCOE 研究生は、各プロジェクトに参加し、担当教員の指導を受けながら、博士論文の執筆を進めている。該当するプロジェクトがないGCOE 研究生には、コース全体企画に参加してもらうほか、事業推進担当者である教員が個別に指導するという形をとっている。
■担当者
<事業推進担当者>〈五十音順〉
秋葉裕一 早稲田大学理工学術院教授
岡室美奈子 早稲田大学文学学術院教授
小田島恒志 早稲田大学文学学術院教授
貝澤哉 早稲田大学文学学術院教授
坂内太 早稲田大学文学学術院准教授
澤田敬司 早稲田大学法学学術院教授
藤井慎太郎 早稲田大学文学学術院教授
冬木ひろみ 早稲田大学文学学術院教授
丸本隆 早稲田大学法学学術院教授
三神弘子 早稲田大学国際教養学術院教授
水谷八也 早稲田大学文学学術院教授
本山哲人 早稲田大学法学学術院准教授
八木斉子 早稲田大学政治経済学術院教授
<客員教員>
野池恵子 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員次席研究員(2010 年度まで)
ガヴィン・ダフィ 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師(2010 年度まで)、聖心女子学院専任講師
<専任研究協力者>
オディール・デュスッド 早稲田大学文学学術院教授
<研究助手>
菊地浩平 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 研究助手
奥香織 早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 研究助手
Ⅱ.コース全体としての活動
■ GCOE 英語ゼミ
講師:ギャビン・ダフィ(早稲田大学演劇博物館グローバルCOE 客員講師)
日時・場所:毎週木曜日 18:15 ~ 19:45・演劇映像専修室2(33-2 号館2 階215)
講師としてギャビン・ダフィ氏(聖心女子学院専任講師)を招いて毎週木曜日に開催し、研究活動のために必須の英語をスキルアップし、国際的な舞台での活躍を促進することを目的としている。この講座では、受講者の英語によるプレゼンテーションのノウハウを身につけさせるのみならず、英語でのコミュニケーションの際に陥りやすい誤解を、英語圏と日本の文化背景の差を踏まえて把握させることにより、より円滑なコミュニケーションを行なう方法を習得させている。目的のはっきりした整理された講義と、ユーモアを交えた会話によって、英語の苦手な受講生にも参加しやすいゼミとなっている。
■演劇論講座
日時:2011 年1 月28 日(金)14:45 ~ 16:45
題目:「迷宮とマニエリスム」
場所:戸山キャンパス39 号館第7 会議室
講演者:高山宏氏(明治大学国際日本学部教授)
今回の講演会では、グスタフ・ルネ・ホッケ『迷宮としての世界』文庫化にあたり、訳者の種村季弘氏とともにホッケの紹介者として知られ、下巻に重厚な解説を執筆されている高山宏氏に、改めてホッケの今日的意義を語っていただいた。マニエリスムを巡る様々な議論を出発点に据え、参加者との対話を通じつつ巨視的な視点から文化史全般を横断するという、極めてダイナミックな講演会となった。
Ⅲ.各プロジェクトの活動(担当者五十音順)
【比較演劇研究】(秋葉裕一)
本プロジェクトは、ベルトルト・ブレヒトを中心に、ドイツ演劇の受容や影響を、さまざまな文化圏、異なった国々、いろいろな時代や社会のうちに眺めることを目的としている。2010 年度は、日本の新劇とブレヒト受容をめぐるインタビュー、ブレヒト研究会(於・大阪産業大学)への参加と成果発表、トリーア大学シュタンカ・ショルツ教授との合同研究報告会などの活動を行った。また、日本演劇研究コースとの共催で比較民俗芸能研究会も行った。
■インタビュー「日本の新劇とブレヒト受容をめぐって」
日時:2010 年7 月19 日(月)16:00 ~ 18:30
場所:早稲田キャンパス51 号館4 階06B 号室
インタビュー ゲスト:高田正吾(早川書房編集者)
日本におけるブレヒト受容研究の一環として、早川書房で演劇書や演劇誌『悲劇喜劇』の編集に携わってこられた高田正吾氏に、日本の現代演劇の舞台を回顧していただいた。このインタビュー記録は、「演劇ジャーナリスト高田正吾氏と語る―日本の新劇とブレヒト受容をめぐって(4)―」として早稲田大学創造理工学部紀要『人文社会科学研究』51 号に発表されている。
■成果報告「ブレヒトと井上ひさし」
日時:2010 年12 月11 日(土)14:00 ~ 18:00
場所:大阪産業大学サテライトキャンパス
報告者:秋葉裕一(GCOE 事業推進担当者・理工学術院教授)
秋葉教授は、日本におけるブレヒト受容の一例として井上ひさし、とくに戯曲『藪原検校』を取り上げて、幾つかの問題提起を行っている。関西在住のブレヒト研究者も井上ひさしへの関心は強く、GCOE 研究生をまじえた論議は活発に行われた。
■研究報告会「現代日本の政治劇」
日時:2011 年2 月8 日(火)16:00 ~ 18:00
場所:早稲田キャンパス26 号館302 会議室
報告者:スタンカ・ショルツ(トリーア大学教授)
秋葉裕一(GCOE 事業推進担当者・理工学術院教授)
日独比較演劇研究の一環として、10 月から国際交流基金フェローとして来日され、早稲田大学で日本演劇の研究を進めているスタンカ・ショルツ教授(トリーア大学)を招聘し、秋葉教授と合同の研究報告会を開催した。ショルツ教授は主に井上ひさしと岡田利規について映像分析を交えて報告し、秋葉教授は日本におけるブレヒト受容について語った。
■比較民俗芸能研究会(日本演劇研究コースとの共催)
第1 回 2010 年4 月28 日(水)18:15 ~ 21:00
早稲田キャンパス26 号館302 会議室
1.題目:「バーゼル謝肉祭視察報告(続)」
報告者:岡田恒男(GCOE 研究協力者・明星大学教授)
2.受難劇視察に向けて
第2 回 2010 年5 月28 日(金)18:15 ~ 21:00
早稲田キャンパス8 号館417 教室
1.題目:「ファスナハト ブックガイド ~都内大学図書館めぐり~」
報告者:林敬太(早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程)
2.受難劇視察に向けて
第3 回 2010 年7 月2 日(金)18:00 ~ 21:00
早稲田キャンパス7 号館ファカルティラウンジ・ミーティングルーム
1.題目:「スライド映写による早池峰神楽の紹介」
発表者:ギュンター・ツォーベル(早稲田大学名誉教授)
2.題目:「前回のオーバーアマガウ受難劇の紹介」
発表者:岡田恒雄(GCOE 研究協力者・明星大学教授)
第4 回 2010 年9 月22 日(水)18:15 ~ 21:00
早稲田キャンパス26 号館302 会議室
1.題目:「演劇研究から見た受難劇」
発表者:長谷川悦朗(GCOE 研究協力者・早稲田大学非常勤講師)
2.視察参加者による「二つの受難劇視察の総括」
第5 回 2010 年10 月13 日(水)18:15 ~ 21:00
早稲田キャンパス8 号館307 教室
題目:「オーバーアマガウ受難劇ドキュメンタリー紹介」
発表者:岡田恒雄(GCOE 研究協力者・明星大学教授)
第6 回 2010 年11 月24 日(水)18:15 ~ 21:00
早稲田キャンパス8 号館307 教室
題目:「ファストナハトに見る儀式化の構造」
発表者:林敬太(早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程)
第7 回 2010 年12 月20 日(月)19:00 ~ 21:00
早稲田キャンパス8 号館404 教室
題目:「 民俗芸能としての地芝居」+「韓国の民俗芸能 サンヨノリ(喪輿遊)のドイツ公演」
報告者:芦野孝男(全日本郷土芸能協会 専門委員)
オブザーバー:李徳雨(東京大学大学院生)
第8 回 2011 年1 月17 日(月)19:15 ~ 21:00
早稲田キャンパス8 号館404 教室
題目:「梅津神楽視察報告」
報告者:岡田恒雄(GCOE 研究協力者・明星大学教授)
第9 回 2011 年2 月1 日(火)18:15 ~ 21:00
早稲田キャンパス26 号館301 会議室
来年度の計画(研究会+視察旅行)作成
第10 回 2011 年3 月2 日(水)18:15 ~ 21:00
早稲田キャンパス14 号館804 会議室
1.民俗芸能に関わるドイツ語文献の検討
2.民俗芸能及び地芝居の視察計画
【ベケット・ゼミ】(岡室美奈子)
ベケット・ゼミは、21 世紀COE からグローバルCOE を通じて数多くの研究者を招聘してセミナーや講演会を開催し、さらに多くの研究生を国際学会に送り出してきた。それらはいずれも世界的な研究動向を学ぶのに絶好の機会となり、日本におけるベケット研究の水準向上に貢献してきたと自負している。そうした活動の集大成として、2011 年度にGCOE の補助を得て、GCOE 研究生および研究協力者を中心とする、若手研究生によるベケット論集を刊行する予定である。2010 年度は、それに向けて定期的に例会を行い、全国から集うメンバーによる研究発表とディスカッションを通じてコンセプト固めを行ってきた。既に多くのメンバーが第1稿を執筆しており、今後合評会を通じて、最終稿に向けてブラッシュアップしていく予定である。
【現代文学の演劇化をめぐる総合的研究】(貝澤哉)
本年度は、当プロジェクトで推進している「現代文学の演劇化」について、川村毅氏にインタビューを行った。そこでは特に見沢知廉との交流の概要把握と、関連資料の付帯情報を得ることが出来た。本プロジェクト企画のシンポジウムおよび研究「川村毅と見沢知廉―現代文芸における演劇化(仮)」に向けて、貴重な機会となった。
【西洋演劇身体表象研究】(坂内太)
西洋演劇、及び戯曲調のテクストにおける身体表象の研究を推進した。また、身体表象研究会を定期的に開催し、GCOE研究生や研究助手によってモダニズムにおける西洋の人形劇を巡る研究発表などがなされた。また昨年度に引き続き参加者全員によって、人間の身体と人形・機械とが対置される様々な戯曲や映像作品についての分析や検証が行われた。
【ポストコロニアル演劇研究】(澤田敬司)
ポストコロニアル状況の中から生まれた演劇作品について研究を推進した。国内外から講師を招へいし実現した「アイヌとカナダ先住民の歌とダンス・ワークショップ」においては、研究生をはじめとした多くの参加者を得ることができ充実したイベントとなった。また、研究生による研究発表を行い、研究指導の推進を図ることができた。
■イヴェント
日時:2011 年1 月28 日(金)18:00 ~ 21:00
題目:アイヌとカナダ先住民の歌とダンス・ワークショップ
場所:早稲田キャンパス6 号館3 階318 教室(レクチャールーム)
講師:サンティー・スミス、レクポ、床絵美
西洋演劇コース・ポストコロニアル演劇プロジェクトでは、継続的に日本と海外の先住民族による現代舞台芸術の展開についての調査・分析を行ってきた。日本で先住民による現代舞台芸術の公演を見る機会は少なく、まして実際にそのエッセンスを体験する機会は限られているのが現状である。今回のワークショップでお呼びした3 名の講師はいずれも、伝統的な先住民芸能の表現者であるとともに、現代舞台芸術のアーティストである。今日の先住民舞台芸術の高い芸術性について、参加者自身がそれを実際に体験して知るという本ワークショップは、非常に貴重な機会であった。
【フランス語圏舞台芸術研究】(藤井慎太郎)
2010 年度は、フランス語の基本(発音・文法)の習得を目的としたGCOE 研究生対象のフランス語ゼミを開催したほか、フランス、カナダから講師を招聘しての連続講演会を開催した。
■フランス語ゼミ
日時: 4 月19 日、5 月10 日、5 月31 日、6 月14 日、6 月21 日、10 月4 日、10 月18 日、10 月25 日(月)13:00 ~ 14:30
場所:早稲田大学33 号館第2 会議室
テクスト:Michel Vinaver, Dissident, il va sans dire.
■ソルボンヌ大学ピエール・フランツ教授 連続講演会
「啓蒙の18 世紀におけるフランス演劇 演戯・権力・革命」
第1 回:「18 世紀パリの演劇状況、見ることの革命」(逐次通訳付き)
日時:2010 年6 月28 日(月)18:00 ~ 21:00
場所:早稲田キャンパス26 号館地下多目的講義室
第2 回:「フランス革命期の演劇 その思想と神話をめぐって」(同時通訳付き)
日時:2010 年7 月1 日(木)18:30 ~ 20:30
場所:日仏会館ホール(共催:日仏会館)
第3 回:「啓蒙思想と演劇 ユートピアと現実の間で」
日時:2010 年7 月2 日(金)18:00 ~ 21:00
場所:早稲田キャンパス26 号館302 会議室
パリ第四(ソルボンヌ)大学より、市民劇や革命期の演劇を中心とする18 世紀フランス演劇研究の第一人者であるピエール・フランツ教授をお招きし、連続講演会を開催した。18 世紀は絶対王政の抑圧から解放されたことで演劇が花開いた時代であるが、それだけにとどまらず、劇場建築や照明等の改革も行われ、「語ること/聞くこと」から「見せること/見ること」へと演劇の重点が移行する時期である。第一回目の講演では、こうした中で生み出された一つのジャンルに集約することのできない多様な演劇形態について、その特徴と問題点が画像とともに詳細に分析された。第二回目の講演では、フランス革命期の演劇が、結果的に演劇の本質とその機能そのものを問うことになっていることが指摘され、大変刺激的な内容であった。第三回目は使用言語がフランス語のみのセミナー形式で、ディドロやヴォルテールの演劇についてお話いただいた。特にディドロはその演劇理論によって、ヴォルテールは実践の場での演劇改革によって、後世の演劇に影響を与えることになる。彼らの「闘い」の意義とその問題点を検討する有意義な研究会となった。
■モントリオール大学ジルベール・ダヴィッド教授 連続講演会
第1 回:「ケベック演劇 その歴史と現在」
日時:2010 年11 月8 日(月)18:00 ~ 21:00
場所:早稲田キャンパス26 号館302 会議室
第2 回:「 ケベックにおける文化政策と舞台芸術 ネーションとしてのケベックという視座」
日時:2010 年11 月12 日(金)15:00 ~ 18:00
場所:早稲田キャンパス26 号館302 会議室
ロベール・ルパージュ演出『ブルードラゴン』の公演に合わせてモントリオール大学よりジルベール・ダヴィッド教授をお招きし、ケベック演劇をめぐる連続講演会を開催した。
ケベック演劇は1960 年代から大きく変化し、めまぐるしい発展を遂げた。第一回目の講演会では、ケベック演劇を芸術として、文学として、制度として、そして政治的・経済的実践として、多角的に分析して頂いた。第二回目は、芸術文化環境コースとの共催で、ケベック演劇の変遷と発展について、特に制度という観点からお話しいただいた。日本では紹介されることの少ないケベックの演劇について、その全体像をご紹介いただき、問題点を再考する貴重な機会となった。
■講演会「マリヴォーをめぐって、その思想と現代性」
講師:ピエール・フランツ(パリ第四大学教授)
日時:2011 年1 月21 日(金)18:00 ~ 21:00
場所:早稲田キャンパス6 号館318 教室
国際シンポジウム「映画と演劇におけるピクチャレスク」でのご講演を機に来日されたピエール・フランス教授による講演会を別途開催した。日本では大きく取り上げられることの少ない18 世紀前半のフランス演劇について、特にマリヴォー劇を中心にお話し頂いた(講演内容とその翻訳を本報告集に収録)。
【シェイクスピア・ゼミ】(冬木ひろみ・本山哲人)
シェイクスピア・ゼミでは、シェイクスピア、および同時代の劇作家について、最先端の現代批評と緻密なテクスト解釈の両面からアプローチをし、シェイクスピア研究の水準を高める場としている。本ゼミが掲げる目標は、テクスト論と上演論をつなぐ最も有効な方法論を模索しつつ、立体的な演劇の場の中でテクスト分析を行ってゆくことである。2010 年度は、事業推進担当者である冬木と本山がプロジェクトを統括し、国内外で顕著な活動をしている研究者を招聘したセミナー、研究生たちによる自身の研究の発表などを随時行なった。また、継続的に本テーマに取り組んできた成果として、『シェイクスピアの広がる世界―時代・媒体を超えて「見る」テクスト―』(彩流社,2011)を上梓することが出来た。
■イヴェント
「シェイクスピア・ゼミ主催、ハンナ・スコルニコフ氏講演会」
演劇博物館グローバルCOE シェイクスピア・ゼミでは、これまでテクストと文化・上演の関わり方を中心に、内外の著名なシェイクスピア研究者による講演会を開催してきたが、今回招聘したスコルニコフ氏は、シェイクスピアのテクストと文化に関する詳細な研究のみならず、シェイクスピアと絵画、近・現代の劇作家との関連など、非常に幅広い研究により高い評価を得、国際シェイクスピア学会の委員も務めている。今回の二つの講演会ではいずれも劇中劇をひとつのテーマとしながら、チェーホフの『かもめ』との比較や、今日におけるシェイクスピア劇の上演環境などへの言及を通じて、『ハムレット』の新たな解釈の可能性を提示していただいた。
第1 回
日時:2010 年9 月29 日(水)15:00 ~ 17:00
題目:『かもめ』におけるチェーホフによる『ハムレット』の解釈
場所:戸山キャンパス 32 号館321-1 教室
第2 回
日時2010 年10 月2 日(土)15:00 ~ 17:00
題目:『ハムレット』の劇中劇
場所:早稲田キャンパス26 号館(大隈記念タワー)302 教室
■講演会
第1 回講演会
日時:2010 年7 月17 日(土)15:30 ~ 17:00
題目:「笑いの再生:上演から見る道化の演じ方」
場所:早稲田キャンパス26 号館(大隈タワー)3 階302 会議室
講演者:阪本久美子氏(日本大学生物資源学部准教授)
シェイクスピア・ゼミが研究を推進してきた「テキストと上演」というテーマを、これまで以上に直接的に検討する講演会となった。上演をテキストの身体的・肉体的具現化として捉えた場合にどのような問題点と可能性があるのか、これまで活躍してきた役者を例にしつつ論じられた。また、笑いという時代固有の要素を現代の舞台においてどのように再現していくことができるのかを考察することで、文化的に異質なものとなったテキストと上演という、これまでとは違った角度からテーマを捉えることが出来た。
第2 回講演会
日時:2010 年10 月9 日(土)14:40 ~ 16:40
題目:「シェイクスピアを編纂する」
場所:戸山キャンパス32 号館322-1 教室
講演者:大場建治(明治学院大学名誉教授)
シェイクスピア劇の版を編纂するためには、何が課題となり、どのような作業を行うことになるのかという問題について、シェイクスピア学者として第一線で活躍し続ける大場氏に、The Tempest TLN 1786 のwise/wife の問題などを具体例に、考察をしていただいた。特に、編纂作業において、戯曲解釈や実際の上演がどのような意味を持っているのかが検討され、これを通して、シェイクスピアのテキストをどのように捉えたらよいかが明らかとされる刺激的な講演会となった。
第3 回講演会
日時:2010 年11 月20 日(土)15:30 ~ 17:00
題目:シェイクスピア本文と「読み」について
場所:早稲田キャンパス26 号館(大隈タワー)3 階302 会議室
講演者:金子雄司(中央大学法学部教授)
本講演では、本文研究の歴史の概略にふれながら、現代の校訂本が孕む問題とその「読み」について、Othello から具体例を挙げて論じられた。扱うテクストが作者の執筆した原稿なのか、筆写者の作成したものなのか、劇場台本として使用されたものなのかで、上演の意味は変わってくる。そのような観点から考えれば、書誌学研究はテクスト上演の最も根本的な問題と関わっているということができる。シェイクスピア書誌学研究の重鎮の1 人であり、日本シェイクスピア協会の会長でもある金子氏の講演は、研究生たちがこれから研究を行っていくためのとても重要な基礎、出発点となった。講演後の質疑応答の時間においても活発な議論が交わされた。
第4 回講演会
日時:2010 年12 月8 日(水)18:30 ~ 20:00
題目: Rubbing at Whitewash: Prejudice, Race and Religion in The Merchant of Venice
場所:早稲田キャンパス26 号館(大隈タワー)3 階302 会議室
講演者:Marion Wynne-Davies(英国サリー大学英文学部教授)
『ヴェニスの商人』を論じる際、ユダヤ人迫害の問題を避けることができないが、実はカトリック教徒迫害も重要な要素となっている。この作品は、信仰心を「白塗り」して覆い隠す必要のあった時代背景を念頭に書かれたものである。ルネサンス期の女流作家からマーガレット・アットウッドまで幅広い分野の研究で知られているWynne-Davies 氏が、シェイクスピアが生まれ育ったストラットフォードのギルド教会を手掛かりにして、よく知られたこの作品を全く新しい視点から読み解くという非常に有意義な講演会となった。
第5 回講演会
日時:2011 年1 月29 日(土)15:30 ~ 17:00
題目:黒澤明のシェイクスピア受容
場所:早稲田キャンパス26 号館(大隈タワー)3 階302 会議室
講演者:芦津かおり(神戸大学大学院人文学研究科准教授)
黒澤明のシェイクスピア映画は、その世界的評価という点で、日本におけるシェイクスピア受容を論じる際には避けて通れない。しかし、それだけでなく、映画化における原作の位置づけという問題を考える上でも重要である。今回の講演会では、日本におけるシェイクスピア受容を精力的に論じてきた新進気鋭の芦津かおり氏に黒澤映画にとってのシェイクスピア原作の位置づけをダイナミックに論じていただいた。
【オペラ/音楽劇の総合的研究】(丸本隆)
本プロジェクトは、演劇学・音楽学をはじめとする学術諸分野の学際的アプローチを通じたオペラ/音楽劇の総合的研究を目指して、21 世紀COE 以来、多様な活動を展開してきた。2010 年度は、研究生の発表や外来講師の講演による研究会を主軸に据え、本プロジェクトが大目標として掲げる「オペラ学の確立」「オペラ/音楽劇研究の進展」の可能性についての考察を進めた。研究会の詳細は以下の通りである。
日時:2010 年4 月27 日(火)18:15 ~ 20:45
場所:早稲田大学国際会議場共同研究室7
題目:「 ウィーンのオペラ事情の最前線― 2008 年9 月から2010 年3 月までの上演の総括」
発表者:佐藤英(GCOE 研究生)
日時:2010 年5 月25 日(火)18:15 ~ 20:45
場所:早稲田大学8 号館405 教室
題目:「 大正期浅草とイタリア・オペラ―東京オペラ座『椿姫』上演を中心に」
発表者:中野正昭(演劇博物館客員研究員)
日時:2010 年6 月8 日(火)18:15 ~ 20:45
場所:早稲田大学8 号館405 教室
題目:「19 世紀イタリア・オペラのソリタ・フォルマ(定型)と作劇法」
講師:森田学(国立音楽大学講師)
日時:2010 年6 月23 日(水)18:15 ~ 20:45
場所:早稲田キャンパス8 号館405 教室
題目:「1910 ~ 20 年代のオペラの諸相」(共同研究発表)
発表1:「バルトーク《青ひげ公の城》における象徴主義の影響」
発表者:岡本佳子(GCOE 研究生)
発表2:「 クルト・ヴァイル≪プロタゴニスト≫における「舞台の音楽」と「ピットの音楽」」
発表者:中村仁(GCOE 研究生)
発表3:「 シェーンベルク《今日から明日へ》における12 音技法とテクストとの関係」
発表者:白井史人(GCOE 研究生)
日時:2010 年7 月28 日(水)15:00 ~ 17:00
場所:早稲田キャンパス8 号館305 会議室
題目:「 ロマン主義オペラにおける「魔」のキャラクター―ドイツとイタリアの比較を中心に―」
講師:山本まり子(GCOE 研究協力者・聖徳大学教授)
日時:2010 年10 月13 日(水)17:00 ~ 20:00
場所:早稲田キャンパス11 号館814 教室
題目:「19 世紀イタリアオペラにおける旋律とことばの関係をめぐって」
講師:森田学(国立音楽大学講師)
日時:2010 年11 月17 日(水)17:00 ~ 19:00
場所:早稲田キャンパス8 号館412 教室
題目:「 Takarazuka Girls’ Opera:大正生まれの歌劇団にみる『オペラ』への意識と実践」
講師:奈加靖子(元宝塚花組・歌手)
日時:2010 年12 月11 日(土)14:00 ~ 16:00
場所:早稲田キャンパス26 号館地下多目的講義室
題目:「 ヴェルディとドイツ人:ナショナリズム、音楽史、そして『オペラ研究』の出現」
講師:グンデゥラ・クロイツァー Gundula Kreuzer(イェール大学音楽学部准教授)
司会:丸本隆(GCOE 事業推進担当者・早稲田大学教授)
通訳:福中冬子(GCOE 研究協力者・東京芸術大学准教授)
日時:2010 年12 月14 日(火)17:00 ~ 19:00
場所:早稲田キャンパス26 号館地下多目的講義室
題目:「霧のワグナー:『ニーベルングの指輪』における蒸気とオペラ演出について」
講師:グンデゥラ・クロイツァー Gundula Kreuzer(イェール大学音楽学部准教授)
司会:中村仁(GCOE 研究生)
通訳:福中冬子(GCOE 研究協力者・東京芸術大学准教授)
日時:2011 年2 月5 日(土)15:00 ~ 17:00
場所:早稲田キャンパス8 号館305 会議室
題目:「 ドン・ジョヴァンニ初演の前夜に―ルイス・フュルンベルクの描くモーツァルトとカサノヴァ」
講師:荒又雄介(大東文化大学専任講師)
【アイルランド演劇研究会】(三神弘子)
アイルランド演劇研究会では、アビーシアター設立以降、現代に至るまでのアイルランド演劇の伝統を概観しながら、社会的、歴史的、政治的コンテクストを検討し、21 世紀の視点で、ナショナル・アイデンティティの問題、ポスト・コロニアリズム、演劇における女性の表象、ケルティック・タイガー以降のアイルランド演劇といった視点で考察を行っている。2010 年度は上記のテーマにくわえ、“Irish Theatre and Its Soundscape”プロジェクトと題し、作家への直接のインタビューなどによってアイルランド演劇における<音>についての研究を着実に進めることが出来た。
【17 世紀フランス演劇研究会】(オディール・デュスッド)
2010 年度は、月一回の勉強会の他に、以下の講演会、研究発表会を開催した。また2011 年3 月に刊行された『フランス17 世紀演劇事典』(中央公論新社)の執筆・編集作業を行った。
日時:2010 年6 月5 日(土)15:00 ~ 17:00
場所:早稲田大学26 号館302 会議室
題目:「パスカルと演劇」
講師:塩川徹也(東京大学名誉教授)
古典劇をパスカルの側から光を当てて再考する講演会が開催された。特に『パンセ』と『プロヴァンシアル』における演劇的な思考と手法をめぐって論が展開された。
日時:2010 年12 月26 日(日)14:00 ~ 16:00
場所:早稲田大学26 号館302 会議室
講師:冨田高嗣(GCOE 研究協力者・長崎外国語大学准教授)
題目:「ポール・スカロンの作品と生涯」
17 世紀の喜劇作家ポール・スカロンの作品とその生涯を検討し、特に後期作品におけるドラマツルギーの変化を考察した。また同時代の劇作品との比較という視座において、スカロンの作品の独自性を探究した。
日時:2011 年1 月29 日(土)15:00 ~ 18:00
場所:早稲田キャンパス10 号館101 教室
発表者:落合理恵子(GCOE 研究生)
題目:「牧人劇から牧人悲喜劇へ、『忠実な牧人』におけるグァリーニの功績とフランス牧人劇への影響」
16 世紀イタリアの悲喜劇と牧人劇の概念が紹介され、それをグァリーニがどうとらえて『忠実な牧人』に実現されたかが示された。またこの作品の特徴に対するフランスの文筆家たちのコメントも紹介された。